第221回 巨大宇宙船の災厄

巨大宇宙船は使命に燃えて未知の惑星に着陸しようとしていた。
「この惑星は文明は発達していませんが、確かに知性を備えた生物が生息しています」
「おお。では我々の技術を伝授してやろう。彼らは飛躍的に文明を発達させることになるだろう」
「我々に感謝することになるでしょうね。神が知恵を授けてくれたと思うかもしれませんね」
「どう思われてもいいさ。さあ、着陸だ。どのような生物たちだろう」
銀色の紡錘体の宇宙船は、ゆっくりとその惑星に着陸した。直後に激しい振動が。

「こりゃあ、なんだべぇ」と銀色の物体をつまんで男は頭をひねった。見たこともないものだ。男は、その物体を、周りの連中に尋ねてまわる。「不思議なもんだね」と女も目を見張った。「植えてみりゃあ、わかるで。なんかの種子だと思うが芽を出さなきゃ正体がわからんが」「そうかぁ、なんかの種子か。そりゃ楽しみだね。うまく育ちゃあええが」
畑の真ん中に、その種子は植えられた、もちろん、それは異星からこの星を訪れた巨大宇宙船なのだが。土中に埋められて肥やしをかけられ土は踏み固められた。

巨大宇宙船の内部はパニックだった。その惑星に到着するやいなや、惑星の生命体に掴みあげられたのだから。
「我々がこの宇宙船に乗っていることを伝えろ」「送信していますが、彼らは受信できる技術をまだ持っていません」「音だ。大音量で話しかけろ」「やりましたが、彼らの耳には音が小さすぎるようです」「うわっ!彼らは何をするつもりだ。この宇宙船を埋めるつもりなのか!」「埋めてどうしようというのでしょう。あっ。翻訳機が‥‥彼ら、この宇宙船をなにかの種子だと思っているようです」「光らせろ。あるいは熱を」「間に合いません。埋められてしまいました」「なんとか脱出する方法を考えるんだ」
時はすでに遅く、巨大宇宙船は土中深く埋められてしまっていた。
「とにかく、この宇宙船を脱出させる方法を考えよう、彼らの知性を向上させて宇宙船を救出させるというのはどうだ」
「幸い、これは世代宇宙船ですから。何世代もかければいつの日か」
そして宇宙船内部でさまざまな技術が開発される。初代の乗組員はいなくなり、その孫の代も過ぎる。そして、一つの可能性に辿り着く。宇宙船の表面を有機性に変え成長させる。そうして地上に出て、この星の生命体に助けを求めるのだ。自力での宇宙船脱出には限界がある。それが最善の方法と思われた。宇宙船の表面は有機生命化し、そして成長し始めた。その先端は、やがて地上に到達した。

「あんれまあ。この間の奇跡の種子から芽が生えただよ」と男は声を上げた。
「ほんとねぇ。でも芽も不思議ねぇ。銀色の芽だわ」女も驚いたようだった。
「もっと成長すればあれがなんの種子だったかわかるだよ。それまで近づいちゃなんねえ」宇宙船からのびた蔦状の先端を見て、この星の知的生命体はおっかなびっくりの様子だった。

その様子は、地上にでた宇宙船先端から本体の乗務員たちに伝わる。
「問題はこの惑星の住人の知性が圧倒的に低いことだと思われます。ここに宇宙船があるなぞ彼らの概念では想像もできないことでしょう」
「方法は一つだな。彼らに知性促進剤を与える。そうすれば我々の存在も認知できるようになるのではないか」
「そうですね。すぐ実行に移します。有機化した宇宙船先端に、知能促進剤を送ります」

銀色の芽はどんどん成長を続け、銀色の枝のように変化した。そして、そこに、まるで果実のような形の知性促進剤が出現した。
「あれぇ、実がなったわ。おいしそう」
「食っちゃなんねぇ。こんな銀色のもの。そうだ。こりゃあ、禁断の樹だ。そして、これは禁断の実だ。こんなもの喰ったら、神様のバチが当たるぞ」
「そうなの。ほーくわばらくわばら」

「なんだ。用心して、知能促進剤を喰ってくれないぞ。どうしたもんかねえ」
「彼らの思考部分に私が呼びかけてみます。そうすれば安心してくれると思います。幸い私たちの姿はこの星にいる生きものにも似ていますし。上半身にものを握る突起もない、立って歩く突起もない生きものに。彼らは“ヘビ“と呼んでいるようですが、親しみやすいかと」

この星の女の思考に宇宙船乗組員の一人が呼びかけた。「あの知能向上剤を齧りなさい。目が眩むほどおいしいですよ。頭も良くなりますよ」
女はその呼びかけに応じた。そんなにおいしいなら。一口ガブリ。ほんとうだ!おいしい!女は男に教えた。「これ、おいしいべ。食べてみたらえぇ」男は、前は禁断の実と言って拒んだくせに、やはりパクリ。しばらくして知能が向上した女が「まあ、私たち、裸じゃない。なんて破廉恥なの」「お、俺も破廉恥だべか。イブの言うこと聞いたら、とんでもねぇ」「アダムも一緒だべ!」
それ以上、彼らの知能は向上しなかったので、地下に埋もれた巨大宇宙船は、そのまま朽ち果ててしもうたと。

第220回 立春の前日に

 鬼ヶ島にしか鬼がいなかったのは、地獄と通じている現世との出入口がそこにしかなかったからです。普段はやってきた亡者を閻魔大王殿の前へ案内したり、刑の決まった亡者の執行を手伝ったり、針山や血の池のメンテナンスをやったり。決して楽しい環境で仕事をやっているわけではないです。で、たまには明るい現世へも行ってみたいのですが、繋がっている現世の場所は鬼ヶ島だけ。四方は荒海に囲まれている。島といっても岩だらけの緑もない殺風景なところ。太陽の光こそあるものの、五分で退屈してしまう。昔は、この鬼ヶ島から船を出して旅行を楽しんでいたそうです。ところがそれがこの世界に住む人間にとっては迷惑に思われ始めました。鬼の侵略行為だと。そしてある日鬼ヶ島へ、桃太郎と名乗る一党がやって来て抵抗する術もない鬼たちを完膚なきまでに叩きのめし、降伏させました。鬼たちは何が何やらわけがわからなかったのですが、そのときいくつもの条件を呑まされました。鬼にとっては考える余裕もありません。
 鬼は人間にとって恐怖の対象であり悪の化身であるから、原則として人間の前に姿を現さないように。それから、鬼ヶ島を一歩も出ないこと。そんなことが条件内容に謳われていました。
 それから長い年月が流れまして、鬼の若者がある噂を耳にします。それによると一年に一度、人間公認で鬼ヶ島の外へ出ることができるらしい、と。子どものころから地獄や鬼ヶ島以外の世界に憧れていた若者は、行けるものならぜひ行ってみたいと思いました。外の人間の世界は、夢のようなところだというし。人間というのは肌の色も赤くないし青くもないのだと。地獄へアルバイトに行ったときに見た、かつて人間だった亡者はすでに影が薄くなっていてあまり印象に残っていないのでした。亡者たちの話では、生きている人間はこんなものではないというし。体の向こう側が透けて見えたりしないという。“全然違う!“そう聞かされると若者は一層好奇心を掻き立てられるのです。
 人間社会へ行ける日程は決まっているし、そこでやるべき仕事をこなすというのが条件です。それに適性も必要とのこと。人間世界訪問のための申請書類を役所で書かされ、三時審査まで受けねばならない。けっこう厳しいものです。でも数も限られているとのことなので仕方ない。しかし、行ける倍率が数百倍と聞き、行けたらラッキーと思うしかないか、と。審査員が「人が思う鬼にしてはハンサムだから」と小声で自分のことを話していたのを耳にしたこともあったからです。そして人間社会訪問のチャンスが訪れました。難関を突破できたのです。
 立春の前日の早朝、高速船で鬼ヶ島を発つツアーでした。若者は小躍りして喜びました。船はまだ暗い海上を若者たちを乗せて出発。船内で到着後の行動予定が知らされます。若者は初の人間社会なのでおしゃれなジャケットを着ていたのに、なんとイベントでは虎皮パンツ以外は裸同然で職務を遂行するのだと。何をやらされるのか。活動は人間のコーディネーターに従うことになるとのこと。
 その日は節分。子どもたちが鬼を退治するために豆を撒く。若者はその豆を身体に受け逃げ回る役なのですと。ため息をつきました。そこまで鬼は情けない存在なのか。
 若者のコーディネーターは、人間の若い女性でした。いいこともあります。夜の豆撒き本番まで、彼女が人間社会を案内してくれたのですから。その女性は、鬼の目から見ても魅力的でしたし、彼が鬼であることで偏見を持って接することもありません。もちろん豆撒きまでは彼はお洒落なジャケットで過ごすことができました。彼女は人間社会で目立たないようにと、角を隠すためのハンティング帽を被せてくれたり、赤い肌を目立たなくするファンディーションを塗ってくれたりと気遣ってくれました。おかげで心地よく人間の世界を楽しむことができました。
 その夜は、鬼としての役割を十分に果たすことができました。その施設は恵まれない子どもたちがたくさんいるとのこと。鬼の怖さを十分に見せつけ、子どもたちが恐怖に打ち克ち、鬼を成敗する大事さを学習させるとのことでした。だから、鬼の若者は自分の役割をどのように演じるかを真剣に考えました。「あなたな ら立派にできますよ」と彼女は不安になる若者の肩を叩いて勇気づけました。
 結果、鬼の若者は素晴らしい恐怖の鬼を演じきりました、登場した鬼の若者が低く唸り声を発すると失禁してしまう子もいたほどです。子どもたちが全身をガタガタと震わせながら勇気を振り絞って豆を若者に投げつけると、若者はうら悲しい叫びをあげてみせます。すると子どもたちはここを先途と激しく豆を投げつけ若者を追い始めます。若者は、これでいい、これでいいと呟きながら退場しました。別の部屋でコーディネーターの女性が「完璧でしたよ」と拍手で待ってくれました。
 鬼ヶ島へ帰る高速船に乗る前に、若者は、コーディネーターの女性に恋をしている自分に気がついていました。彼女と一緒に暮らしたい。勇気を出して彼女に想いを告白しました。
「結婚してくれませんか?もし鬼の私でよければ」恥ずかしそうに彼女も答えました。
「私でいいんですか?女は結婚すると鬼嫁に変身する人もいると言いますよ」
 彼は首を横に振りました。「それはそれでいいのではありませんか?あなたは鬼嫁に変わり、私は人間らしい愛される鬼を目指したいと思います」それが、鬼と人間との多様性社会に繋がる一歩であることに、このときはまだ誰も気づいていなかったのでした。

第219回 運命を紡ぐ美女

「これは五百円の割引券と聞いたのですが」「今日は一月四日です。発行日より一ヶ月間有効となっています。発行日印は十二月二日になっていますから、もう使えません」「二日違いでは駄目ですか?なんとかなりませんか?」「決まりなので駄目です」と眉をひそめた。スーパーのレジの女性は私を睨みつけて言った。ぱっちり目をした美しい女性店員だった。だが悪意を込めて唇を尖らせていた。私がその使用不可能な割引券を引っ込めようとすると、女店員は素早く私の手から券をもぎ取る。「もう使えない割引券なので、こちらで処分します」目の前で破り捨てられてしまった。
 ひどい。二度とこの店に来るものか。しかし、断るにも言い方があるだろうに。そんなことを考えたときに気づいたことがあった。さっきの美人の店員に会ったのは初めてではない。どっかで会っている。どこで会ったのだろう。そうだ。もう十年以上前、大学生でアルバイトをしていたときの事務所の女性だ。あの女性も美女だった。
 彼女はアルバイト先を訪ねてきた友人たちの私への伝言を一切伝えなかった。私はそんな伝言は聞いていないと答えたが、友人たちは私よりその事務所の美しい女性の方を信用したらしい。友人たちは皆怒った。私がその女性に文句を言うと「仕事中なんだから、私用は二の次よ」とか「ちゃんと伝えたわよ。あなたが生返事だから覚えていないのよ」言い争って水掛け論にしかならなかった。世の中には、こんなひどい女がいるのかと呆れたものだ。あんなにきれいな顔なのに。そのために友人たちを何人失ったことか。バイト代をもらいに行ったとき、最後にもう一言文句を言ってやろうと思って探したがいなかった。聞けば退職したとのことだった。いろいろと問題のある女性だったのかも知れない。その美人だった女性の顔が、割引券拒否の女性の顔と重なった。時代は違っていても、同じ顔をしている。ぱっちりした目、薄い唇、ひそめた眉。十数年の時代差があるのに同じ顔ということがあるだろうか。
 そういえば、幼稚園の頃。観たい映画が近所の映画館でやっていて、帰りにそっと潜り込もうとしたときだ。腕を引っ張られ、きれいなお姉さんに外へ戻された。そして園児バッグに書かれていた住所に無理やり連れていかれた。きれいな顔の女は両親に私を厳しく叱るように言いつけた。
 あの女も同じ顔。ぱっちり目をした美人顔だったが感情が何も見えない。眉をあのときもひそめていた。
 幼い頃、若い頃、いつも私の前に現れて、嫌な気持ちに陥らされるあの美女。すべて同一人物ではないのか?呪いの女?いや、人の姿をしているが、人ではないのかもしれない。だから、いつの時代にも存在していたのではないか?同じ年齢、同じ容姿のまま。私を不幸にするためだけに存在する正体不明の女。いや、魔女。
 これからの人生で、彼女に会ったとき、どう対応するべきなのか。
 と考えつつ、数日後、例のスーパーの前を通ると黄色い立入禁止のテープがあり、貼紙があった。読むと、このスーパーでガス爆発があったとのこと。多数の死者を出したことが詫びられていた。もし、あの割引券が使えていたら。そして、愛想よくされていたらその後も何度もここに買い物に訪れていたかもしれない。ゾッとした。
 あの美人はガス爆発でどうなったのか?
 それから昔の友人と会い酒を飲む機会があった。共通の友人に関する昔話を語るうちに、疎遠になった友人の話題になった。事務所の美人のために生じた誤解のせいで絶交の形になった奴の話だ。「あいつ、今評判悪いんだ。昔の知り合いに次々と金を借りまくっている。お前のところに来なかったか?」「来ないよ」絶交状態ということは言わなかった。そんな奴だったのか。
 その二つの出来事から、幼い頃から嫌な思い出として記憶に残っている映画館でのことが気になるようになった。映画館はもうない。その場所は今は貸しオフィスのビルになっている。いつからなのだろう。そういえばずいぶん昔から映画館じゃなくなっていたようなあ。気になると調べたくなる性分だ。貸しオフィスの連絡先の不動産屋に尋ねてみた。「あのビルは昔、映画館でしたよね」「ええ。建て替えられました」その年月まで教えてくれた。「ちょっとした事故でね」図書館で新聞記録を調べると、映画館は火災で消失したのだと知った。私が映画館で美女に捕まり両親から目玉を喰ったすぐ後のことだった。あのぱっちり目の美女が関わっていた嫌な記憶は全て私を、結果的に悲劇に陥らないよう救ってくれたことになるのか。とすれば、あの美女は私にとっては幸運の女神…?
 いや、そうだとしても嫌な思い出が多すぎる。いくら美人でもあんな幸運の女神は嫌だ。
 そして独身だった私も彼女ができた。少なくとも、避けたかったあの嫌な美女には似ていない。少し眼は細いが、とにかく笑顔が魅力的だった。私は彼女と結婚することに決めた。毎日が夢のようだった。彼女の両親に挨拶することになった。そして予測しない出来事が。私は、絶句した。彼女の母親に会って驚いた。彼女の母親は見紛うことなき、あのぱっちり目の眉をひそめたあの顔の美女だったのだ。「どうしたの?」と彼女。「いや、なんでもない」悩んだが、彼女の魅力に逆らえず彼女と結婚した。なに、母親に会わなければいいんだ。幸というか不幸にも彼女の母親は急逝し会うことはなくなった。胸を撫でおろす。
 数十年経ち、少しづつ妻の目がぱっちりしてきた。そして、眉はいつもひそめ気味だ。美女といえる。そうだ、どこの娘も歳を重ねると母親に似てくるというのは真実だ。
 今日も妻に嫌味を言われた。あのぱっちり目で唇を尖らせて。「あなた!タバコを吸い過ぎないで!タバコは万病のもとよ!!」と。
 きっと私の身体のことを考えていってくれているのだろうし、それは私にとって正しい助言なのだろう。だが、毎日続く彼女の嫌味は耐えられない。彼女の言うことに耐え、健康に過ごすのが幸せなのか?それとも好きにストレスのない日々を送るのが幸せなのか?
 あなたはどちらを選びますか?

【shiromap(しろマップ)】追加店舗のお知らせ 11月分

関東で白岳商品を飲みたいとき・買いたいとき、すぐにお店が探せるshiromap(しろマップ)!

「追加されたお店を知りたい!」とのお声に応えて、
前月追加店舗をお知らせいたします。

2022年11月は下記店舗が追加されました。

■買えるお店:99店舗
・クスリのアオキ:3店舗
・イオンリカー:1店舗
・ダイレックス:4店舗
・カスミ:29店舗
・ライフ:2店舗
・マックスバリュ:1店舗
・マミーマート:2店舗
・マルヤアタック:1店舗
・ミニストップ:5店舗
・オザム:27店舗
・オーケー:10店舗
・スギ薬局:10店舗
・酒商濱田屋:2店舗
・ヤオコー:2店舗

【shiromap(しろマップ)ご利用はコチラから】
https://www.e-map.ne.jp/p/shiromap/

【shiromap(しろマップ)とは】
登録件数3,000店舗超!
首都圏で白岳商品が「買えるお店」「飲めるお店」を検索できるナビサイト!
「しろ」「KAORU」などの商品ごと、最寄り駅、エリア、店名などでも検索が可能です。
さらにGoogle Maps上の表示が可能で、行きたいお店の道順が分かります。

第218回 驚けセリヌンティウス

 セリヌンティウスは驚愕した。1日の仕事を終え、帰宅して翌日の石工の段取りを考えていると戸を叩く音がする。外に出てみると兵たちがずらりと家を取り囲んでいる。いったい何事かよ。問いかけても兵は何も答えず王城に連行された。
 そして、残虐王として名高い暴君ディオニスの前に引き立てられた。この時点ですべての望みを断たれた気がする。思考が停止し、ゲシュタルト崩壊を起こしてしまったようだ。王の前にもう一人、男がいる。会ったことがあるような無いような。認知能力がほぼゼロだ。男はメロスと名乗っている。メロスという男のいうことを聞いていると、自分はメロスの代わりに人質になるらしいことがわかってきた。なぜ人質にならなければならないのか?メロスが「頼むよ!セリヌンティウス!私を信じてくれ」そうだ。メロスは思い込みの強い知り合いだ。しかも直情径行でおっちょこちょいだ。なんの因果で彼は自分の名を出したというのか。それからさらにゲシュタルト崩壊がひどくなり、セリヌンティウスの記憶は欠落してしまった。後で聞いて知ったことだが、メロスは王を怒らせて死刑を宣告されたのだそうだ。メロスの妹が結婚するので猶予をと厚かましくも王に頼み込んだという。メロスがメロスなら王も王だ。セリヌンティウスを人質にとる。もしメロスが帰ってこないと彼を打首にするぞと。メロスは必ず三日後に帰ると約束したらしい。セリヌンティウスはその記憶もすっぽり欠落していた。精神崩壊の中でメロスに身体を揺さぶられて、何度も頷いたのだという。それから兵たちに連れられて待機場所へと案内された。セリヌンティウスが我を取り戻すと、そこは鉄格子の中ではないか。
 やはり人質は罪人扱いかと肩を落とした。猶予は三日間。メロスが急いで村へ帰り、急いで妹に結婚式を挙げさせ、疾風のような速さで帰ってくれば往復二日もかからない。十里ほどしかメロスの村まで離れていないのだから。牢獄で待つ身としてはメロスを信じるしかないのではないか。果報は寝て待てというではないか。そうだ、寝よう。肝の決ったセリヌンティウスは横になり目を閉じた。
 はっと目を覚ますと外は雨の音がする。牢番に尋ねると、なんと三日目なのだという。メロスはまだ帰ってきていない。恐怖で膝ががくがく震える。黙って村に帰っていればいいものをわざわざ王に文句を言いにいくなぞ、狂気の沙汰だ。あいつはその場の雰囲気に流されやすいからな。きっと妹の結婚式ではしゃいで放心して、すべてを忘れて寝込んでいるのではないか。あいつならありえる。だからまだ帰ってこないのだ。どうすればいい。考えろ!考えるんだ!
「王に会わせてくれ!」セリヌンティウスは牢番に言った。
「私はメロスが事故に遭ってると思います。友人として彼を救いに行きます。彼を救ったら三日以内に戻ってきます。そのための人質としてホメーロスを置いてきます。三日以内に帰ってこないときはホメーロスの首を刎ねてください。メロスの頼みを聞いたのですから、同条件の私の頼みをディオニス王は聞かないわけにはいかないでしょう。公平をお示しください」「それもそうだな」と王は納得した。ホメーロスはセリヌンティウスに借金をしていたために、三日後必ず帰ってくるから人質にという依頼を断れなかった。ホメーロスは「オデッセイア」を執筆中だったから、動きまわることもなかったのだ。
 それからしばらく後に、ホメーロスは恐ろしい真実にたどりついた。このままでは自分の首が刎ねられてしまう。慌ててホメーロスはディオニス王に面会を願いでた。
「王よ。私はセリヌンティウスを探して必ず期日までに戻ってきます。代わりに竹馬の友イリアスを置いていきます。お断りになってはいけない。同条件の人質ゆえに」
 ホメーロスは呆れて言葉も出ないイリアスを人質に置いて、やっこら城外へと逃げ出した。とにかく一刻も早くセリヌンティウスを探し出さねばならない。そして城に連れ戻すしか、自分の命が助かる道はない。セリヌンティウスは、どこをうろついているものか。そうだ、メロスの帰りを待っているのなら、メロスの村の方角だろう。
 そうあたりをつけて、村はずれまでやってきたとき、夕陽に人影がある。間違いない。セリヌンティウスではないか。おや、誰かと一緒だ。駆け寄ると、やはりセリヌンティウス。彼は男の腕を掴んでいた。「彼が騒ぎの原因、メロスだ。戻ったから一緒に王城へ行くところだ」「いろんな人に迷惑をかけたようで、すまん」とメロスは頭を下げた。
 すると城の方から男が走ってくる。ホメーロスはびっくり。「イリアス、なんでここに」その背後からもいろんな人が走ってくる。「あっ、ヘレニウスも。皆それぞれ伝手で知り合いを身代わりにしたのか!じゃあ、皆で城にいこう」今や団体で王城へ乗り込むことになった。一同は城内で叫ぶ。「メロス一同、帰ってきたぞ。身代わりを解放しろ」だが、身代わりが誰なのかよくわからない。王座の前に広場に見すぼらしい男が。「彼が身代わりか」
 身代わりを見て一同は絶句した。それはディオニス王だった。「まさか!」「いや、私は孤独だった。しかし、私を頼って人質になってくれと言う者が現れた。ハレホレウスだ。そして私はその者を信じた。そして私を救うためにハレホレウスは戻ってきてくれた。人を信じることを教えてくれた皆に褒美をつかわすぞ!」
 セリヌンティウスは、顎を外すほど驚いた。

第217回 ゼロ博士の因果

 さて、この星は危機に瀕していた。ある時期から突然平均気温が下がり始めたのだ。恒星つまり太陽が徐々に活動を鈍らせてるからだ。原因はわからないが、このままだと寒冷化が進みすべての生命がこの星から消え去ってしまうと予測された。この危機から人々を救うにはどうすればいいのか?宇宙に脱出させるべきなのか?しかし、すべての生命を宇宙に脱出させるのは不可能だった。宇宙船は有限だ。乗船できる人数も限られている。しかも、宇宙に脱出できたとしても近隣に移住できる天体は見当たらず、近いうちにこの星の住人は絶滅するに違いなかった。だから解決策は一つ。太陽を蘇生させることだった。この星には天才的頭脳を持った科学者、ゼロ博士がいた。彼はこの星の全生命を救うべく研究を続けていた。彼は太陽を蘇生させることができるある可能性にたどり着き、その計画を実行しようとしていた。太陽人工無限連鎖反応計画だ。その理論では、この計画を実行に移せば太陽は衰弱することなく永久に安定的活動を続けていくというものだった。
 計画はこうだ。太陽の中心部に無限核反応誘導ゼロ式弾を打ち込む。すると、弾は太陽を安定化させ限りなく活性化させ続ける。これで人々どころか、星系のすべての生命を救うことができるはずだった。
 それはゼロ博士が幼い頃から努力を重ね続けてきた研究の成果だった。
 自分の永年の研究が結実し、まさかこのようなかたちでこの惑星の生命を救うことになろうとは考えてもいなかった。なんと素晴らしいことか。
 この星の人々はその計画に熱狂し、絶望から奇蹟を与えてくれたゼロ博士を称賛した。
 そしていよいよ人々が見守る中、無限核反応誘導ゼロ式弾ミサイルを太陽に打ち込む日がやってきた。
「発射!!!」
 弾が打ち込まれたと同時に、太陽内部でその弾の効果を発揮するはずなのだ。ミサイルは紅蓮の炎を噴きながら、宙へと舞い上がり太陽を目指し飛翔を開始した。確実に太陽を目指す軌道にいる。太陽に到着するまでに長い時間がかかる。到着してもその弾は溶解することなく太陽の中心部に届き、無限核反応を引き出せるだろうか?
 果たして!なんと見事、太陽に命中しその内部へと到達したことが、ミサイルからゼロ博士の機器に知らされた。
「やったぞ」歓声が地上で谺した。ゼロ博士は無限核反応誘導機のメインスイッチを入れ起動させた。
 これで、太陽はかつての安定的輝きを取り戻してくれる……筈だった。だが残念なことに歓声は次の瞬間、絶叫と悲鳴に変わった。太陽が光炎(フレア)を伸ばしたのだった。太陽がスーパーノバ化したのだ。数分後に太陽から核爆弾化したかのような熱と炎が惑星に届くのは明白だった。そうなれば瞬時にこの惑星は灼きつくされてしまうだろう。その事実を知りつつゼロ博士の心にさまざまな思いが去来するのだった。
 なんと虚しい。私はすべての生命を守ろうと自分の生涯を研究に捧げてきた。ところが、その努力や苦労や研究は何の役にも立たなかった。ひょっとして私という存在がなければこれほどまでにひどい災害を招かなかったのではなかろうか。私、ゼロ博士こそが最悪の元凶だったか、。
 超新星化した太陽の光炎は、ついにその星系の隅から隅まで拡がっていった。ゼロ博士の科学ゆえの最悪の核融合は拡散を続け、その凄まじい光はかつてないもので宇宙の彼方まで届くほどだった。

 そして二百年後。二百光年離れた宇宙の果てにある惑星“地球“の片隅で、年老いた母親がベッドに横たわっていた。娘が母親に言う。
「お母さん、ちゃんと食べて栄養をとれば心配いらないってお医者さんも言ってたよ。どうして食べてくれないの?」
「もう十分長生きしたからね。あの星を見てごらん。あれはお父さんの星だと母さん思んだよ。いつも私に早くおいでって言ってるみたいでね」
「そんなことないわ。なに言ってるの。さあ、この粥を食べて」
 娘は匙を母親の口に近づけた。母親は口を開けない。
「父さんは母さんが元気でいてほしいって思ってるわ。母さんがんばれって!」
「そんなことない。母さんは疲れたよ。父さんは優しく瞬いて待っていてくれる。早くおいでって。がんばれって言うなら父さんはもっと早くから母さんに知らせてくれる筈だよ」
「きっと、もうすぐ知らせてくれる。だから母さん、頑張るのよ」と娘が言った瞬間だった。
「あっ、父さんの星!」
 二人が同時に叫ぶ。夜空の彼方が激しく光る。まるで父親があの世から母親を叱るように。それは…実は二百年前の星系の消滅の光なのだが。
 その光を見て「父さんもはげましてるじゃない」と娘。母親も大きく頷く。
「もっと頑張れってことなのね。父さんから叱られたみたい」と母親は神妙に呟いた。「こんな奇蹟があるのねぇ!」
 娘は高みにいる存在に感謝した。おかげで、母親が生きる意欲を少しだけ取り戻したようだ。

 ゼロ博士の絶望的な悲劇が、実は宇宙の果では小さな奇蹟を生んだ。知らないところで何が幸福の種となるか、誰にもわからない。
 宇宙はそんな不確定の小さな積み重ねで、できている。

第216回 銃の言い分

 殺しの仕事なら、まかせておきな。俺はプロの殺し屋だ。お手頃お値打ちな価格で殺しを引き受ける。あなたには憎くてたまらないやつはいないかね。何度殺してもあきたりないように憎いのだが、自分の手で殺すほどの勇気はない。そんなあなたのような人が世の中にはたくさんいて、俺のような殺し屋を重宝してくれる。俺はいつも愛用の拳銃で百発百中の殺しをやっているんだ。俺なら金さえ払ってもらえば、すぐに殺し実行だ。途中で気が変わった、殺すのをやめてくれは手遅れだから、頼む前によくよく考えておくことだな。殺した奴は生き返ってくれないんだ。
 そんな殺し屋家業を何十年続けてきたやら。こだわりがねえ。使い馴れた拳銃でないと殺しの仕事に自信が持てないんだよ。ちょいと困ったことが最近あってねえ。愛用の拳銃の弾丸だが、もう商売繁盛で在庫が切れそうだ。銃器店の親父に取り寄せを頼むと申し訳なさそうに言ったよ。「実は、弾丸は製造してないんですよ。今、使っておられる弾丸が切れたら、どうしようもありませんや」それじゃあ殺し屋家業もできないってことじゃないか。最近、愛用の拳銃を撃つと標的に当たる位置にズレが生じるようになって、どうしたもんだろう、とぼんやり考えていたんだが、弾丸なしじゃ、根本的に解決できないということか。それじゃあ、どうすればいい?銃器屋の親父は、肩をすくめたのだ。「新しく買われててはいかがですか。そして馴れるしかないでしょう。愛用の拳銃とよく似たものもございますよ。そちらの銃なら弾丸の在庫も十分にございます」
 そろそろ愛用の拳銃も新しいものに買い換える時期なのか。覚悟を決めたさ。新しい銃も扱い方はほとんどこれまでの銃と同じじゃないか。これはいい。ただ、気になることを銃器屋の親父は言った。
「弾丸が製造中止になったのも銃規制が進んだおかげなんですよ」
 射撃場で標的を撃ったが、これまでの銃と使い勝手は変わりなかった。問題ないさ。これにしよう。もちろん、銃器屋の親父は俺の職業を知らない。「新銃規制法クリア商品です。心してお使いください」そのときもっと詳しく尋ねておくべきだったのだ。新銃規制法クリアの銃とはどんなものか、と。何、試し打ちのときもあれほど標的によく命中したではないか。問題はない筈だ。
 そのうちに新しい仕事が入った。商売敵を殺してくれという依頼だ。なんということはない簡単な仕事だった。殺しの相手に近づき急所を狙って引き金を引く。それだけだ。
 相手が一人になったとき俺は近づき銃口を向けた。「何者だ」という声には応えず引き金を引こうとする。
 動かない。なんだ!大事なときに。
 それどころか、突然そのとき拳銃が話し始めた。
「あなたは人に向けて私の引き金を引こうとしています。あなたに引き金を引く必然性はあるのですか?」
「俺は殺し屋だ。引き金を引かないと仕事にならない」慌てて拳銃に言う。
「では正当防衛ではないのですね」
「当たり前だ。もたもたしていたらこっちの身が危くなる」
「では、殺しを行うとして、それは社会的に許される殺人ではないのですね。そして今は戦時ですか?」
「戦時中なら殺人が許されるというわけでもないだろう」
「国に許可されていますか?」
「国は関係ないよ」
 銃と話していると殺しの相手が大声を出して助けを求める。すると数人の黒づくめの殺し屋が現れて、俺に銃口を向けてきた。
「この殺し屋をやってしまえ」と標的が俺を指差す。しまった。多勢に無勢だ。すると……。向こうの殺し屋たちの銃も喋り始めている。
「あなたは一人の相手大勢で撃とうとしています。許されることですか?」
「あなたは発砲を受けましたか?発砲されていないのに、こちらから先に撃っていいのですか?」
 相手の殺し屋の銃たちもそれぞれに持ち主の殺し屋に殺人の正当性に疑問を投げかけている。中には「わかりました。ここで正当防衛だとして、敵は弾丸を撃っていません。では弾丸はどう考えているんでしょうか?」
「私は弾倉にいますが人間を傷つけたくありません」なんと弾丸も喋っている!!
 拳銃だけでなく、弾丸にまでも平和主義化したAI(人工知能)が埋め込まれたらしい。新しい銃規制法をクリアして販売される銃がこのようなものだとは。拳銃で自殺しようとすれば、思いとどまるよう説得するのだろうか?すべての新たに販売された拳銃がこの仕様になっているなら、確かに人を殺傷することはなくなるだろう。しかし、なにか方法はある筈だ、俺の殺し屋としての存在が残っている以上。
 俺は、銃に話しかけた。
「おい。じゃあお前の存在理由はなんなのだ。銃口を持ち弾丸がある。照準、そして引き金はなんのためだ。俺に殺人はいけないと説教するためだけにこの世に生まれてきたのか?違うだろう。引き金を引かれ、銃口から弾丸を発射するのがお前の存在理由だろう!」
「そうですね。仰る通りです。引き金を引いてください」
 やった。俺の説得が通じた。
 相手に向けて引き金を引いた。
 凄まじい銃声とともに俺の目の前に万国旗と花吹雪が飛び出てきてキラキラと舞った。

第215回 折り紙の理由

 世の中には、私が理解できない奇妙なものがときどき出現する。そして、理解できないのは私だけかもしれないと恐怖に陥ってしまうことがある。
 たとえば水を入れたペットボトルを最初に見つけたときがそうだ。玄関近くの軒先に並べられていた。どんな意味があるのかわからずにぼんやり眺めていたものだ。この家の人たちは何故こんなことをするのだろう?変わった方たちだ、と。他の家の塀にも、やはりペットボトルが水を入れて並べられていた。何の意味があるのか?これには何か目的があるのだろう。わからない。
 正体不明の恐怖がこみあげてきた。何かの呪いなのか?
 その水入りボトルの正体は後に知ることになった。猫は、水の入ったペットボトルはギラギラ光るので寄りつかない。そんな情報が広がり猫よけとして流行を見せたという。私だけが知らなかったのかもしれない。散歩の途中、水入りのペットボトルを置いたお家の方に質問すると、笑いながら教えてくれて疑問が氷解したのだった。
 そんなことから、私が知らないのに常識となっていることに出会っても気にならなくなってきた。胸に丸い彩りの多いバッジを皆がつけ始めたり、いっせいに訳のわからない感嘆符を語尾につけて使い始めたり。
 それぞれに意味があり、それぞれに普及していく理由があるのだろう。深く詮索しても仕方ないことなのかなあ、と考えることにした。日々を送っていくのに。何の支障もないわけだし。
 だが、今回ばかりは気になった。これは、いったい何を意味するのだろう。それは、テレビを見ているときに気づいた。バラエティ番組ではない。政治討論会の生放送番組だった。各政党の代表が口角泡を飛ばし主張しあっていた。議題は福祉問題だったか、経済対策だったか。議題は防衛問題に移り与党代表が話し始めた。そのとき目を奪われたのは話し手の手元だ。彼はいかに防衛費をかけなければならないかを熱心に語る。しかし彼は手元でメモ用紙を折りたたんで何かを作っていた。無意識に何かを折っているようにしか見えない。画面が切り替わり、野党代表が詰問を始める。しかし、野党の男も両手を素早く動かす。なんと、彼もメモ用紙でせわしなく折り紙を折っているのだ。二人は同じものを折っている。しかし、私にはそれが何なのかわからなかった。何か動物のようでもある。作った本人が折り紙の端を押すと、不思議にぴょこぴょこと動くのだった。まるで生き物であるかのように。それを自覚なしによっているように見える。
 出演者たちはふざけているのだろうか?思わずチャンネルを切り替えるとニュース番組だった。
 なんと、そこでニュースになっていたのが折り紙現象についてだった。折り紙が折られていたのは今日の討論番組だけではなかったのだ。全国的に無意識に人々が奇妙な折り紙を折るという現象が発生しているということだった。とニュースを読んでいるアナウンサーまでも、ニュース原稿で何やらわけのわからないものを折り始めているのだった。どんな意味があるのだろうか?あんな難しそうな折り方をどうやって覚えたのだろうか?あの折り紙にどんな意味があるというのだろう。ペットボトルに水を入れて置くような簡単な理由があるのだろうか……わからない。
 しかもアナウンサーは原稿を読みながら、二作目の折り紙を折り始めていた。呆れた。他のチャンネルではどうなっているのだろう?と自分の手元を見て驚いた。何と、近くに置かれていた新聞の広告紙で、無意識のうちに折り紙を折り始めているのだ。どうしてこんな折り方を知っているのか?テレビの映像は今、世界ニュースに変わっていた。
 何ということだ。取り上げられている各国のニュースは、すべて“折り紙現象“だった。全世界の人々が謎の折り紙をいっせいに折り始めているということを知った。
 何故?この現象はなに?今まで、こんな現象を人類は体験していないはずなのに。そして、折り紙を折るという行為は、何を意味しているのか?
 すると、ニュースの画面が変わった。別のニュースだ。海面に大きな深海魚が浮かび上がってきている。と、画面では無数の魚たちが水面で口をぱくぱくさせている。それも大量に、画面の彼方まで海面を魚たちが覆い尽くしているのだ。
 そして別のニュースになった。街中の犬や猫が突然に興奮し、暴れだす。犬や猫だけではなく町のカラスがいっせい移動を始めていた。
 前兆現象だ。大地震の前にナマズが騒ぎだす、といったアレだ。そういえば、地震を予知して犬が騒ぎ立てるというのを聞いたことがある。
 何故、騒ぎ立てるのか?と犬やナマズに問い質したところで、ナマズたちにもその理由がわかる筈はないだろうな、と思いあたる。
 ひょっとして、この折り紙を折る理由も、何故なのかと問われてもわからないのは当然かもしれない。いや、大地震の前兆でこんな現象が起こると聞いたことはない。
 世界中の人類がすべて折り紙を折るというのが、人類にもわからない前兆現象という可能性もある。ぶるっと寒気がして、折り紙を持ち本能的に外へ飛び出した。
 その瞬間、太陽が凄まじい光と炎を放った。
 そして、地球は……。

【shiromap(しろマップ)】追加店舗のお知らせ 7月分

関東で白岳商品を飲みたいとき・買いたいとき、すぐにお店が探せるshiromap(しろマップ)!

「追加されたお店を知りたい!」とのお声に応えて、
前月追加店舗をお知らせいたします。

2022年7月は下記店舗が追加されました。

■飲めるお店:2店舗
・思(しのぶ)
・キッチンどれみ

■買えるお店:336店舗
・三平ストア:1店舗
・横濱屋:1店舗
・スーパー横濱屋:1店舗
・お酒の横濱屋:1店舗
・ワイズマート:1店舗
・ヨ-クフーズ:2店舗
・ヤオコー:7店舗
・ミニストップ:46店舗
・マミーマート:1店舗
・ビック酒販:13店舗
・ドラッグセイムス:30店舗
・ドラッグストアスマイル:3店舗
・トップ:2店舗
・せんどう:22店舗
・スギ薬局:114店舗
・スーパーオザム:1店舗
・ジョイフル本田:6店舗
・コジマ:3店舗
・クリエイトエス・ディー:35店舗
・クスリのアオキ:18店舗
・カスミ フードスクエア:15店舗
・カインズ:2店舗
・イオンリカー:2店舗
・イオンスタイル:8店舗
・A-プライス:1店舗

【shiromap(しろマップ)ご利用はコチラから】
https://www.e-map.ne.jp/p/shiromap/

【shiromap(しろマップ)とは】
登録件数3,000店舗超!
首都圏で白岳商品が「買えるお店」「飲めるお店」を検索できるナビサイト!
「しろ」「KAORU」などの商品ごと、最寄り駅、エリア、店名などでも検索が可能です。
さらにGoogle Maps上の表示が可能で、行きたいお店の道順が分かります。

第214回 上天草の油すましどん

 上天草の東部を走っていると栖本町に入る。栖本町は河童伝説が有名で、河童の看板やオブジェが多い。見つけると心が和む。このまま進めば、ほどなく天草市本渡になるな、とぼんやり思う。あてのない日曜ドライブだった。
 すると意味不明の看板標識が目に飛び込んできた。青い囲みに青い文字だった。
〈油すましどんの墓〉
 油すましどんのお墓?油すましどんってどんな人?いや、人か?水すましみたいなもの?
 その標識のある場所は空き地になっている。そこに愛車を駐めた。何か気になった。油すまし……油すまし……。聞き覚えがあるからだ。
 車を降りると看板があった。
 油すましの解説だ。大まかには、こうある。

ーこの峠には「油すましどん」という妖怪の昔話が残る。河内村へ帰る老婆が小さな孫の手を引いて、草積峠へさしかかったとき「昔は、こんなところに油すましどんが出たんだよ」というと、「今でも出るぞー」と言って油すましどんが現れた。これを民俗学の父柳田國男先生が民俗誌の連載で「アブラスマシ」という妖怪を紹介したところから広く知れ渡るようになった。昭和五十七年栖本町民俗調査で、河内町に「油すましどんの墓」といわれる供養塔が存在することが発表された。
 この地区では油すましどん伝説を継承し、油すましの里づくりに取り組んでいる。ー

 そうか。聞き覚えがあると思ったら、妖怪にゆかりの場所か。油すましとは椿油を絞ることのようだ。それがなぜ、妖怪なのかはわからない。妖怪だからかなり怖い姿をしていたのだろうか?
〈油すましどんの墓〉の標識には矢印がついていた。せっかく車を降りたんだ。歩いて行ってみるか。妖怪の墓なんて、どんなのだろう?
 好奇心が優先した。矢印に従って県道から右折する。軽自動車がやっと一台通るほどの田舎道だった。道の左右は農地だ。背後の県道もあまり車の通りは多くはないから、辺りはあくまでも、のどか。あくまでも静かだった。
 ここに妖怪が出現したのか、と考えると意外な気がする。遠くで小鳥が鳴いている。あやかしとは一番縁がなさそうな場所ではないか。昔はこの辺りは拓けていなくて鬱蒼としていたのだろうか。
 待てよ?と思う。油すましどんというのは本当に妖怪だったのだろうか?老婆と孫が話をしていたのは「ここいらに油しぼりをする人たちが昔おってな」ということだけ。そこを通りかかった椿の油しぼりの職人が「今もおるぞ」と自分のことを答えただけではないのか?それが妖怪の連載の中で柳田國男が紹介しただけで「油すましどん」は妖怪に分類されるようになったのではないか?話の中では妖怪らしい姿も語られないし、不思議な行動をしているわけでもないし。
 本当に妖怪なのかな?
一本道をとぼとぼ歩くが畑ばっかりでそれらしきものは見えない。小さな橋を渡り、まだ進むが油すましどんに関する標識はない。道がつきあたり、左右に分かれるが、どちらに行ったものか?迷う。引き返そうか。
 プッと音がする。振り返ると白い軽トラックが停まっていた。ぼんやりして道を塞いでしまっていたのだ。「あっ、すみません!」と頭を下げる。軽トラックには地元の人らしい痩せた小柄の老人が乗っていた。そうだ。尋ねてみよう。
「あ、すいません。油すましどんはここいらに?」老人は、ほう、と頷き「すぐそこ」と指差す。「珍しかなあ。油すましどんばねえ」と言って追い越して走り去ってしまう。その山道を辿ると、木製の看板があり今度は〈油すましどんの里/ようこそ!〉と書かれていた。墓じゃないのか。下に降りる階段があり首のない石像が三体祀られていた。これだけ?これが油すましどん?
 拍子抜けした。こんなものなのか。誰かの供養塔ではあるのだろうが、明治政府の神仏分離政策、廃仏毀釈によって首がもぎ取られた結果がここにあるのだろうな。しかし、首はなくとも石像は地元の人たちに手入れされ、守られている。それで十分かもしれないな。
 油すましどんが本物かどうかは、どうでもいいのかもしれない。伝わる石像たちが地元の人たちに大事にされていることがわかるだけで。
 さあ、県道まで戻るとしよう、と山道を下り始めた。すると後方から、聞いたことのあるプッというクラクション。さっきの老人の軽トラか?と振り向く。やはりそうだった。見つけました!とお礼を言う。「さっきはありがとうございます。おかげで油すましどん、わかりまし……」しかし…。
 軽トラから顔を出したのは中年のおばさん。訝しげに私を見た。そして言った。「はあ?さっき?会ってないよ」人違いなのか。
「てっきり、さっきのおじいさんかと。この道の先に行かれたので戻ってこられたのかと。同じ白いトラックだったので」
 中年のおばさんは首を傾げる。
「この道は行き止まりだよ。私は誰ともすれ違っとらんが。油すましどん見にきたのかね」「そうですが」「そりゃ、油すましどんが教えたんじゃないかね?この場所」「さっきのおじいさんが妖怪?この現代に?ここで…?」中年のおばさんの顔がぐにゃりと変わって痩せた老人になった。老人はニヤリと笑った。そしてあんぐり口を開いた私に「今も出るぞー」