メンテナンスのお知らせ

平素より格別のご高配を賜り、誠にありがとうございます。 下記の通り、システムメンテナンスの実施に伴い、弊社公式サイトが一時的にご利用いただけなくなります。

■対象サイト
https://www.hakutake.co.jp/(当該ドメイン内の全ページが対象です)
https://www.denshogura.jp/

■停止日時
2025年10月29日(水)13:00より ※終了時刻は未定です。

メンテナンス作業が完了次第、順次ご利用いただけるようになります。 なお、作業中はWebフォームからのお問い合わせを受け付けておりません。 お急ぎのご用件につきましては、下記電話番号までご連絡くださいますようお願い申し上げます。

お客様相談室 TEL:0966-24-7726

ご利用の皆様にはご不便をおかけいたしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

プレミアム米焼酎「待宵」がフランスの品評会「KURA MASTER 2025」にて金賞を受賞

明日10月6日は、秋の美しい満月を愛でる「十五夜」。
大きく神々しい満月は、古来より日本人の自然観に寄り添ってきました。
その前夜にあたる月を「待宵(まつよい)の月」と呼ぶことをご存じでしょうか。
満月を待ち望む心を表したこの言葉には、「待つ時間すら楽しい」という美しい意味が込められています。

弊社のプレミアム米焼酎「待宵(まつよい)」は、芳醇で濃厚、まろやかで深い味わいが特長の一本。

このたび、フランス・パリで開催された和酒の品評会「KURA MASTER 2025」において、プレミアム米焼酎「待宵(まつよい)」が米焼酎部門の金賞を受賞いたしました。
KURA MASTERは、フランスのトップソムリエやレストラン関係者を中心とした審査員によって選ばれる、ヨーロッパ最大級の日本酒や本格焼酎などを対象とした和酒のコンクールです。日本の伝統的な酒造りとその味わいを、世界に広めることを目的としており、今回の受賞は「待宵」の品質と味わいが国際的にも高く評価された証です。
▼受賞発表ページ(KURA MASTER公式)
https://kuramaster.com/ja/shochu-awamori/concours/comite-2025/laureats/

「待宵」は、焼酎づくりにおいて最も重要とされる麹を100%使用した、全麹仕込みの贅沢な美酒。芳醇な香り、まろやかな風味、深いコクを実現し、その味わいの豊かさと深みで、素材そのものの味を楽しむ刺身や蒸し物などのうまさを引き立てる、まさに料理の名脇役です。
■受賞商品の概要
商品名:プレミアム米焼酎「待宵」
原料:米こうじ(国産米)
容量:720ml/1800ml
度数:28度
分類:本格焼酎
蒸溜方法:減圧蒸留

▼商品詳細はこちら
https://www.hakutake.co.jp/lineup/detail/matsuyoi.php

今回の受賞を励みに、今後もさらなる研鑽を積み重ねながら、日本国内外を問わず世界に愛される酒づくりを目指してまいります。

第252回 ハロウィンの彼女

おじいちゃんがハロウィンのことを知っていたのが不思議だった。おじいちゃんはこう言った。「アメリカ帰りの叔父さんから教えてもらったのだよ。十月にそんな日があるって。不思議な子どもが訪ねてくる。そして言うんだ。トリック(いたずら)・オア・トリート(お菓子)って。お菓子を渡すと子どもは消えてくれる。それでハロウィンを憶えたのさ」その話が大好きになったおじいちゃんは、ハロウィンの日に子どもを待っていた。そしたら本当に玄関からその子どもが現れたそうだ。その子は少しイメージと違っていたらしい。子どもの頃のおじいちゃんより、ずいぶん歳上のお姉さんだったそうだ。黒い服を着て、白いペイントを顔に塗っていた。でもとても素敵な人なんだとわかったそうだ。「トリック・オア・トリート」という彼女の声は十月の風のように柔かく、彼女が街灯代わりに持っていたカボチャの灯火のように温かかったと。おじいちゃんは現れた彼女を大好きになったそうだ。でもお菓子をもらうとすぐに消えてしまった。次の一年、おじいちゃんはとてもハロウィンが待ち遠しかった。彼女とどうすれば他の日も会えるのか尋ねるつもりだった。でも、また今年も来てくれるだろうか?
次の年のハロウィンの日。同じ時刻。彼女はやってきた。そして彼女は言った。「トリック・オア・トリート」前の年と同じ笑顔で。おじいちゃんはお菓子を手に持ち「ねぇ。いつもどこに行けば会えるの?」と尋ねようとした。でも尋ねられなかった。ふと、おじいちゃんが彼女の足許を見たからだ。
彼女の足は、宙に浮いていた。
呆然としたまま、おじいちゃんがお菓子を渡すと「ありがとう」と彼女は言って、闇の中に溶けこむように消えてしまったということだ。
いったい彼女は何者なんだ?
毎年、ハロウィンの日に彼女はやってきた。不思議なのは彼女がまったく成長しないことだ。歳上に見えていたのに、その頃は同じくらいの年齢になっていた。ある年、お菓子に加えておじいちゃんは黒マントを彼女にプレゼントした。彼女は大喜びだった。当然だがマントは彼女に、とても似合っていたんだ。それから彼女はおじいちゃんと色んな話をするようになったのだという。そのあたりで少しずつ日本でもハロウィンの習慣が知られるようになった。皆が仮装してハロウィンの日に集まって大騒ぎしたりするようになった頃のこと。相変らずハロウィンの日になると、彼女はおじいちゃんのところへ忘れずに現れた。おじいちゃんは毎年、「今年もまた会えたね」と伝えると、彼女は本当に嬉しそうな表情を浮かべ、二人で宵闇の中を歩き、色んな話をしたのだという。その頃は、彼女は白塗りをやめ、美しい笑顔を向けてくれるようになっていた。
数年が経過すると歳上と思っていた彼女は、おじいちゃんより幼なく見えるようになっていた。彼女は歳をとらないのだ。
おじいちゃんは思いきって自分の気持ちを彼女に伝えた。大好きだ。ずっと一緒にいたい。そのとき、おじいちゃんは彼女の正体を知った。そして自分が彼女と一緒になれないことも。
「私は人間ではありません。ハロウィンを創り出した人間の心から生まれた、ハロウィンの精なのです。だから、人といつも一緒にいることはできません。私もあなたのことは大好きです。それだけはわかってください」
そう彼女はおじいちゃんに伝えた。おじいちゃんは無理を言うような人ではなかった。一番大事なのは彼女が変わらずに自分のところへ毎年訪ねてきてくれることだったのだから。
歳月は正直だった。おじいちゃんはそう言っていた。おじいちゃんは毎年、年齢を重ねていき、それ迄、誰にも話さなかったこの話をママに話してくれたそうだ。
おじいちゃんは言っていた。少しずつ声はかすれるようになったし、手も震えるようになった。それでも毎年、彼女はハロウィンの夜に、ぼくのところに訪ねてきてくれるんだ、と。そのとき彼女を抱きしめ、どんな一年を過ごしていたのかを語った。彼女がどんなことを話してくれたかは、しっかりと覚えている。彼女は言っていた。「私は変わらない。だから私のことも忘れないで」
彼女は永遠のハロウィンの精霊になったんだとおじいちゃんはそのとき思ったそうだ。
あるハロウィンの夜、おじいちゃんはいってしまった。「でも、心配するんじゃない。私は、彼女とともに初めて毎日を過ごせるようになるんだから。今年も彼女が、そこに来てくれている」
だから、ママは悲しくなかったと言っている。おじいちゃんは本当に幸福そうな笑顔を浮かべていたそうだから。
ママのことかい?
ああ。ある年のハロウィンに彼女が赤ん坊を抱き、おじいちゃんのところに現われ、そして言ったんだそうだな。
「この女の子は、あなたの子です。可愛がって育てて下さい」
彼女がそう言うのなら、きっとこの子は彼女と自分の間にできた子だ。おじいちゃんはそう信じた。そして大切に大切に育てたという。
そう、ママは誇らしく言った。その子が私なのだ、と。
それからハロウィンの夜は三人で過ごしたの。それがハロウィンのおじいちゃんの話。
信じる?信じない?
そう言ったママは一枚の写真を出した。「ママが撮った写真。これ、おじいちゃんよ。隣の女の人が、毎年ハロウィンに訪ねてきた人」
初めて見る写真だった。おじいちゃんの横にいるきれいな黒い服の女の人は、驚くほどママに似ていた。
そして今夜はハロウィン。ドアの外からノックの音が響く。「はい」とドアに走る。いったいどんな人がいて、そして言うんだろう。
「トリック・オア・トリート」と。

第251回 『猿の手』あります

見知らぬ駅で、何故か気になり列車を降りた。何故、気になったのかわからないが気まぐれに歩き始めた。
その日は霧が出ていてその街は独特の雰囲気が漂っていた。まるで外国のひなびた街のようだ。
少し歩くと喉が渇いてきた。通りに椅子が置かれていてコーヒーを飲んでいる人の姿が見えた。よし、私も渇きを癒すか。一杯飲んだら駅に戻ろう。「いい街でしょう」と声をかけられた。
「いや、初めてなので」と答える。
「何か、この街でおすすめとかありますか?」
声をかけてくれた男は首をすくめた。「この街は静かなことが取り柄かな。他はなにもおすすめはありませんね。名物らしいものはなにも売ってないし。そういえば、一軒だけ古物商のお店がありますよ。変なものばかりあるらしいけれど」
変なものには興味は湧かない。もっと面白い店はないのか?
私の気持ちがわかったのだろう。申し訳なさそうに言った。「すぐそこにありますよ。店の前に『猿の手』ありますと書いてあるから、すぐわかる」
『猿の手』?私は驚いた。
「『猿の手』って有名なあれですか?W・W・ジェイコブズの小説で登場する……」
「そうです。古物商の主人がそのことを言っていたから間違いありませんぞ」
猿の手のミイラの話はこうだ。老夫婦と息子が暮らす家に立ち寄った軍人が言う。三つの願いをかなえる魔力を持つ猿の手のミイラを持っているが、よくない気がするので捨てようと思っている、と。それでは私に、と老夫婦はその猿の手を譲ってもらう。果して、家の借金二百ポンドを欲しい!と願うと、翌日、息子は仕事先の事故で死亡。だが、補償金として老夫婦は二百ポンドを受け取った。息子の死を悔やむ妻は、あと二つ願いをかなえてくれると思い当たる。猿の手に頼んだ。息子を返してくれ、と。すると誰かが表のドアを開けてくれ、と叩き始める。妻は息子が戻ってきた、と狂喜する。妻がドアを開けようとした瞬間、夫は怖しいできごとを予測する。夫は猿の手に三つ目の願い事をした。すると、ピタリとノックの音が止んだ。ドアを開けると外に誰の姿もなかった。
それが、『猿の手』の話のすべてだ。その『猿の手』が、こんなひなびた街の古物商店に流れ流れて売られているとは。
「『猿の手』が、巡り巡って、何故こんな小さな街にあるんですかね?」
「さあ、それはわかりません。『猿の手』の話でも、その話以降の『猿の手』がどのような人の手に渡り、どのようなできごとがあったのかは誰も知らないことではありませんか?それが幾人もの人の手を経て、日本に渡り、この街にやってきたとしても、何も不思議ではないと思いますよ」
もし、本物がそこにあるとすれば、ぜひ手に入れたいと思う。三つの願いがかなうとすれば……。ぼんやりと、そんなことを考えていた。
「おっ。興味があるんですね」
「ええ。まあ…その古物商は、ここから近いんですか?」
「ええ。すぐに見つけられますよ。大きな目玉が描かれた看板があるから、わかりやすい。それに大きく『猿の手』あります、という貼紙がドアにありますから」
私は礼を述べて立上り、歩き始めた。本当に願いをかなえてくれる『猿の手』が存在するならば、願うことがある。
私たち夫婦は長年の夢であったマイホームを建てた。そして四千万円のローンを組んだ。十分に計画したつもりだったが現実にはその借金は苦しかった。余裕はまったくない。何のために生きているのか?借金を返すため?
本当に『猿の手』があるとすれば、その四千万円が入ってくることを願う。そうすれば、私たち夫婦は、これから人間らしい生活を送ることができるようになるではないか。
もし、その『猿の手』が本物であるならば、願いは三つもいらない。一つだけで十分だ。
他に家族もいない。私たち夫婦二人だけだ。
歩いている人は誰もいない。薄暗い街をとぼとぼ歩くと、前方に看板が見えた。その看板は大きな目玉を描いたものだった。霧の中だと不気味さが増す。『珍古堂』と書かれていた。ここだ。ドアは木製で閉じられていた。営業しているのだろうか?ここに本当に『猿の手』が売られているのだろうか?
なるほど。ドアに手書きの貼紙があった。
<『猿の手』あります>
ここだ。間違いない。それにしても深い霧だ。ここまで近付かなくては、なんと書いてあるかも読めないとは。
内部から光が漏れているのが見えた。ちゃんと営業しているらしい。『猿の手』があれば、ぜひ売ってもらおう。
ドアに近付くと内部で興奮したような声が聞こえた。先客がいるらしいが、何事があったのだろう。先客らしい女の声は、どうも聞き覚えがある。誰だったろう。あんなに興奮して泣き喚くとは。私は耳をすませた。
「そりゃあ、私は四千万円欲しくて『猿の手』に願いましたよ。四千万円欲しいって。それがなんです。列車事故があって、私の主人が死亡して、その補償金が四千万円だって。主人を返して下さい」
これは私の妻だ。この店の噂を聞きつけて『猿の手』に四千万円欲しいと願いにきていたのか。そして私が列車事故死してるなんて。
「そうだ。まだ二つ願いがかなうんですよね。愛する主人を生き返らせます。お願い『猿の手』」
私はドアを叩いた。私はこうして生きているぞ。冗談じゃない。
すると中の妻の声が止まる。私はドアを叩き続ける。すると、珍古堂主人が妻に言う。
「怯えないで下さい。願いはもう一つかなえられますよ。それを願って!」そして妻は…。三つ目の願いを口にする…。すると…。

第250回 日本むかし話の真実

定年になった。六十五歳。
これまでの仕事はやめなければならない。退職金は微々たるものだった。これでは身にもしものことがあったら生きていけない。年金生活者として暮らしていくしかないのか。貰える年金いくらだ?額を聞いて驚いた。とても生活していける額ではない。いや、生きていくことさえ難しい。これまで、あんなに幾重にも税金を納めてきたというのに。
やはり、これからも働かなくてはまともに過ごしていけない。しかし、仕事はあるのだろうか?
ハローワークへ行き、仕事を探す。だが、いい仕事には巡り会えない。賃金も安い。紹介される仕事に溜息ばかり出た。ハローワーク職員が言った。「紹介できるのは、これくらいですね。面白くて条件のいい仕事ってありませんよ。あなたの年齢なら、シルバー人材センターを利用しては、どうですか?」
そうなのか。確かに身体も方々ガタがきている。若い頃のように思いきり動きまわれる自信はない。鏡を見ると、立派なおじさんではないか。
とぼとぼとハローワークを出て歩き始めると見知らぬ男から声をかけられた。
「ちょっとお待ちください。お仕事を探しに来られたのですか?決まりましたか?」
「いえ。まだ決まりません」とつらそうな声を漏らした。すると男は、よかった!というように胸を撫で下した。腹が立つ。人の不幸で何がそんなに嬉しいんだ。男はそれから言った。
「日本むかし話のおじいさんが人手不足なんですよ。私は民話人材スカウトマンですが」
「それって人材派遣会社みたいなものですか?」
「はい。条件はこんな感じで」
給与もいい。勤務地も近くのようだ。「ありがたいお話です。私でいいのですか?」
「はい。誰でもいいという訳ではありません。見たところ、あなたのようにこれはぴったりの日本むかし話のおじいさんはおられません。勤務もこの近くですから」
「で、どんな仕事なのでしょう」
「はい。近くに『日本むかし話普及センター』があります。この施設の中は異次元で、むかし話の世界になっています。子供達が日本むかし話を読むと実は想像の世界でこの施設の中とつながるのです。子供達が成長していくために欠かせない施設です。そして、むかし話で一番登場数が多いのがおじいさんです。その世界でおじいさんをやって頂けないでしょうか?」
それは楽しそうな仕事だ。
しかし、異なる次元につながっているとは。
「やりましょう」
出勤すると、早速、仕事だ。むかし話の知識はあるから、「適当に言ってくださって大丈夫です」と。
おじいさんの着物は想像どおりの昔のものだ。最初の仕事は桃太郎のおじいさんだ。山にシバカリに行って帰ると、川に洗濯に行っていたおばあさん役が大きな桃を持ってきた。そして私を見て呆れて言った。「山に何しに行ってきたのですか?」私は方々山を歩いて集めた芝を見せた。「山に芝がなくて、これだけ集めるの大変だったのですよ」おばあさんは首を振った。「シバカリとは、柴刈りです。芝刈りではありません」
カマドの燃料となる小枝のことなのか。
「もっと常識あるおじいさんだと思ったのに」
スカウトマンが、手招きした。「じゃあ、こちらはいいですから、カチカチ山の方へ行ってください」
「わかりました」
次の場面ならわかる。ウサギが悪いタヌキを懲らしめる。私は、おばあさんをタヌキに殺されたおじいさんの役をやればいいのか。これなら間違いようがない。野良仕事から帰っておばあさんがタヌキに殺されたことを知るという場面だった。家の中に入る。するとおばあさんが「タヌキ汁できてますよ」とすすめてくる。その汁を食べる場面だった。
知っている。この汁は、殺したおばあさんで作った婆汁なのだ。食べるとタヌキが出てきて「じいさん、ばばあ食べた」とはやし立てるのだ。これを食べなければ、むかし話進まない。どうしよう。持った箸が止まってしまった。この汁の中は、おばあさんだ。食える筈がない。どうしよう。するとスカウトした人がまたしても現れた。「なにをもたもたしてるんです。食べなきゃ、話が進まないではありませんか?」「食べれません。人肉でしょう」と私は言うと、スカウトマンは溜息をついた。「やはり、無理ですか。では、かぐや姫のおじいさんをお願いします。竹の中からかぐや姫を見つけるところからですが」
それなら簡単だ。光り輝く竹を見つけて、おじいさんが竹を切ると、かぐや姫をその中で発見するのだ。確かに輝く竹があった。駆寄り竹を切ると、中に女の子が。その女の子を抱き上げる。何と美しいのだろう?これが、かぐや姫か!するとかぐや姫が尋ねた。
「はじめまして。おじいさん。私の名前をつけてください」もちろん、かぐや姫と言おうとして口籠ってしまった。何故、かぐや姫という名なのか?必然性がない。家具がまわりにあるというわけでもなし。名付けるには必然性が要るぞ。
何故かぐや姫だ?えーと。えーと。
またしてもスカウトマンが現れた。
「かぐやというのは、光り輝く!という意味なんですよえ。これも役がつとまりませんか」「すみません。じゃあクビですか?」
「うーん。人手不足ですからねぇ。じゃあ、悪いおじいさんをやってみますか?善人の顔で実は悪人という憾みもでていいかもしれない」
クビは免れたものの、内心は複雑な思いだ。
これでは日本むかし話ではなく、日本むずかし話と言った方が正確ではないか。

第249回 防災訓練

 私の勤める会社は月に一度、防災訓練をやる。何の防災訓練になるかはわからない。その次期、社長が不安に感じていることがテーマになる。例えば、六月は水害対策の訓練だった。梅雨を迎えることからだろうと納得できる。近くの河川が氾濫したという想定で、重要な書類や機器類が濡れないように、より高い安全な場所に避難させる。水の侵入を防ぐために土嚢を準備する。他にも、火災時の訓練もやった。皆で消火器の使い方を確認したり、バケツリレーをやったり。おかげで火事のときにも、あわてずに対応できる自信がついた。これから秋を迎えようという頃には台風の直撃に備えようとの社長の提案で、避難時の心がまえ、そして地震災害から身を守るための訓練では、社内の倒れやすい備品、設備類の再確認をやり、津波に備えて避難経路を確認して、実際にその道をそれぞれの足でたどってみた。
 そんな防災訓練だが、来月は何をやるのか、まだ社長から聞いていない。私が総務の立場で社長の企画を聞いてから、具体的な訓練を決めるのだ。もう、いろんな災害を想定してやりつくしたと思うのだが。また一度もやったことのない訓練があるのだろうか?
 社長に次回の防災訓練の企画を尋ねにいった。「社長、次回の防災訓練は何をやりましょうか?」
 社長は窓の外を見ていた。
「うん。次回は、ゾンビに会社が襲われたときの訓練にしようと思っている」
 私は耳を疑った。
「は。ゾンビですか?歩く死体のゾンビですか?」
「そうだ。あの凶暴なゾンビに我が社が囲まれたときに、どうすれば被害を最小に抑えることができるか、考えておくべきではないかと思ったのだ」
 さすがに私は呆れ、社長に言った。
「あの。ゾンビというのは映画の中の作り話ですよ。現実にはゾンビなぞ存在しないんですよ。映画のゾンビはジョージ・A・ロメロがナイト・オブ・ザ・リビングデッドを撮ってから、人気が出て色んな映画に登場するようになったのです。
 すると社長からは意外な答が返ってきた。
「そのくらいわしも知っておるわ。だがな夢物語のはずのゾンビ話が映画の中でこれほど大流行しているのは何故か、考えたことはないのかね」
「お、おもしろいからではないのですか…?」
「ちがうね。わしは、ゾンビ映画がこれほどに流行する真理に気がついたのだ。人類は潜在意識下で人間がゾンビ化する運命を予知している。だからこそ、理由はわからないくせにゾンビ映画を作り、求めるのだよ。そこにわしは気がついた。だから、ゾンビが現実に現れる前に、ゾンビが出現し人間を襲うパニックをどのように防御するか、考える必要がある。
「どうだ。納得できたかね」
 私は喉元まで「ゾンビ映画を製作するのはゾンビのメイクするだけで一本映画が作れて、製作費がかからない。そういうことではありませんか?だから学生映画でも皆がゾンビ映画を作りたがる。それでゾンビ映画だらけになったのではありませんか?予知なんかじゃないと思いますよ」と出かかっていたのだが、遂に、そのことは言わなかった。何せ社長なのだから。社長の言うことには逆らえない。代わりに言ったのは「わかりました」だ。
「では、次回の防災訓練の準備に入ろうと思います。社長のイメージをお聞かせ下さい」
 社長は満足そうに大きく頷いた。
「うむ。今回の訓練は何人かゾンビ役が必要だな。集めることができるかな。もちろん総務の君とか、ゾンビのメイクをしてな」
 それは当然予想していた。
「はい。ご期待に応えるよう努力します」
「うん。ゾンビの特性を十分に勉強しておいてもらいたい。一般人がゾンビに傷付けられるとゾンビになってしまうことも教えておいてくれ。それからゾンビは走ってはいけない。ゆっくり歩いて来るように。ゾンビの急所は頭だ。頭を破壊すれば殺せる」
「本当にそんなことはしないように伝えます」
「ゾンビは大きな音を聞くと動きが止まる。ゾンビ役は覚えておくように」
 社長室から戻ると各部各課に次の防災訓練は「ゾンビ訓練」であることを伝えた。皆が信じられない表情であることは明らかだった。まさに私も営業が言った「本気でやるんですか」の気持ちだった。
 訓練当日、私は妻のメイク道具を借りて、ゾンビ姿に化けた。家族は私の顔を見て、腹をよじらせて笑っていた。会社へはマフラーを巻いて出勤した。
 予想通り、朝一番でゾンビの防災訓練が実施された。ゾンビ役は私とあと二名総務から。そしてゾンビに捕まると、その者もゾンビ役になる。最初は緊張して防災訓練をやっていたが、だんだん白熱化して私の頭めがけて石を投げてくる始末だ。ゾンビを殺すには頭を狙うんだと誰かが言いだしたらしい。念の為、ヘルメットを着けていてよかった。と心から思った。社長室を見ると、満足そうに社長は頷きながら訓練を眺めていた。訓練は無事に終わった。
 数日後、翌月の防災訓練の打合せのため、私は社長室にいた。「皆、ゾンビについて正しく認識できたようだね。君たちのおかげだ!」と社長。何よりの一言だった。「さて、来月の防災訓練だが……」
 手に持った新聞を私の目の前に置いた。そこには現在公開中でヒットしている巨大原子怪獣映画の写真が載っていた。
まさか…この原子怪獣が襲ってきたら、てことはないだろうな。まさか。
 しかし、社長は目を細めて嬉しそうにゆっくりと口を開いた。

第248回 ごめん警察

雨あがりの日のことだった。
道を歩いていた。知らずにうっかり水溜りに足を入れてしまった。
びちゃ!
そんな音がして、ほぼ同時に「うわっ!」と声がする。あわてて顔を上げるとスーツの男がそこに立っていた。
私が水を跳ね飛ばして服にかけてしまったのだ。スーツは泥水だらけ。おまけにワイシャツまで泥汚れで汚らしくなってしまっていた。男は、怒りの表情で肩をいからせて私を睨んでいた。
「ごめんなさい。服の洗濯代を出します。どうか、許してください」
スーツの男は、怒りがおさまらない様子だった。今にも握った拳を私の顔面に炸裂させたいようだ。
「このスーツを着て、今日、就職のための面接を受けにいくところだったんだ。おかげですべての予定が狂ってしまった。あんたのせいだぞ。あやまって済むと思うな。ごめんで済むなら、警察はいらないんだ!」
なるほど、大変な怒り狂いようだ。ひたすら私は、謝るしかない。「ごめんなさい。ごめんなさい」しかし、怒りは鎮まらず許してくれる気配がない。
そのときだった。紺色の制服を着た男が現れ、私とスーツの男の間に割ってはいった。
「なんだお前は!」とスーツの男。「お前は関係ないだろ!」
すると制服の男が言った。
「私は、ごめん警察のものです」
「ごめん警察ぅ??」
「はい。世の中には、無数のトラブルが溢れています。そのトラブルは、あやまって済むものもあれば、警察沙汰にしなければならないものがあります。そして、どちらにもつかないトラブルがあります。いわゆる“ごめんで済むなら警察はいらない”と言われているトラブルです。これが実は一番多い。そこで誕生したのが“ごめん警察”です。私は、その“ごめん警察”として世の中の中途半端なトラブルの解釈に日々、取組んでいるものです。」
「どうしてここに現れたのですか?」
「はい、私の聴力は特殊な訓練を受けた結果“ごめんで済むなら警察はいらない”という声を聞くと、筋肉が反応する身体になっているのです。だから今も、ここで“ごめんで済むなら警察はいらない”の声が聞こえてきたので、早速に参上したのです。
そう言った“ごめん警察”は、えへんと咳ばらいして胸を張ってみせた。一見したところ頼もしそうにも見えるが、聞いたこともなかったし胡散臭そうな人にも見える。しかし、このごめん警察に今のところは頼るしかないようだ。このごめん警察に果たしてトラブルが終息できるものだろうか。とりあえず私は、トラブルの原因を順序だてて話した。スーツの男も耳をそばだて、自分がこれから面接に行く大切な場面だったことを主張した。
ごめん警察は即座に行動を起こした。何処かに特殊な通信機を使って連絡をとる。すると数分後にドローンが飛んできて何かの包みを落すと、飛び去ってしまった。
包みをごめん警察がスーツの男に渡す。
開くとスーツの男は思わず歓声を漏らした。
中から出てきたのは新品のスーツとワイシャツ。しかも着ているスーツよりお洒落だし高価そうだ。ごめん警察はスーツの男たちに言う。
「さあ、このスーツに着替えて、すぐに面接に行くのです。こちらの方は誠心誠意謝っておられる。新品のスーツであれば何も文句はない筈です。いかがですか?」
「もちろんです。これで何も文句も問題もありません」
そう言って新しいスーツに着替えた男は、そそくさと笑顔で立ち去っていった。
ほっとした私はへなへなと全身から力が抜けそうになった。ごめん警察のおかげで、私はやっとトラブルから解放された。
しかし、“ごめんで済むなら警察はいらない”と言っていた警察が実在したとは。「もちろんスーツ費用はあなたの口座から引落しですが」私は感激していた。どれだけお礼を言っても足りないほどだ。「それで済むのなら!」
すると、ごめん警察の男が私に言った。
「あなたは本当に真面目な人のようですね」
「はい。こんなごめん警察のような素晴らしい仕事が存在するとは知りませんでした。驚きました」
「そうですか。この仕事が生まれて、まだ新しいのです。ですから、まだ、人手が足りません。私ももっとやるべき仕事があるのですが。それが悩みです。どうですか?せっかくの機会です。あなたも、“ごめん警察”になりませんか?」
それは願ってもない話だ。そんな世のため人のための仕事につけるとは。
「なんと素晴らしい話でしょう。ありがとうございます。ぜひその仕事やらせて下さい」
こうして、私は“ごめん警察”になった。世の中にトラブルの種は尽きまじ。おかげで私の仕事は大忙しだ。方々で“ごめんで済むなら警察はいらない”の声が聞こえてくる。すると私は駆けつける。おたがいの誤解があったり、約束を守れなかったり、恋愛観の違いがあったり。まさに様々だ。そのひとつひとつを地味ながらも丁寧に解決していく。そして感謝されると仕事にやり甲斐を感じる。
ふと、“ごめん警察”の先輩のことを思いだした。手が足りないと言っていた先輩はどうしていることだろう。しかし、まさかすぐにテレビの画面で見かけることになろうとは。
戦闘状態にあったA国とB国が停戦交渉に入った。そして、二国の首脳の間に笑顔でいる人は彼だ!!
“ごめんで済むなら軍隊”を今はやっているのか。

 

第247回 新しいお店

仕事帰りに気がついた。住まいからそれほど遠くない場所に、お店が出来ている。前は、一般住宅だったイメージがある。建物は壊さずに内部だけを改装して客を受け入れるようにしたのだろうか。かつては目立たない地味な住宅だった外観なのに、気がついた時には、おいしそうな料理を出す雰囲気を醸し出していた。
どんな料理を出す店なのだろう。
まだ営業はしていなかった。夕方、前を通ると、着々と改装準備が進んでいることはわかるのだが。
そして遂にお店がオープンした。店の前に開店祝の華やかな花輪がならんで、“営業中”のプレートも輝いていた。
私は新らしい店がオープンすると、いても立ってもおられなくなる。どんな料理を提供する店なのだろうか?どんな味だろう?メニューはどうなっている?料金はどうだろう?他のお店と比べてコストパフォーマンスは良いのだろうか?そして、接客はどうだろう?どんなにおいしくても接客が最悪であれば、二度と行かない店もあるからなぁ。そして、内部はどうなっているのか?店内がお洒落であれば、心がわくわくするものだ。
店内へ次々と人が入っていく。すぐにでも入店したかったが、今、店に入れば、かなり待たされる気がした。きっと私と同じようにお店が開店するのを待っていた人がそれだけ多いということかな。
数日、我慢して待つ。開店してすぐの様な混雑はないだろう、と確信して店を訪問した。数名の客がいるだけだ。食べているのは麺類が多いようだ。そういえば店のカラーも赤を基調としているから……ここは中華料理を出すお店だったのか。
カウンターに腰を下ろした。中では店の主人が黙々と料理を作っていた。主人は厨房で被る白い帽子と白マスクを着けているので若いのか年輩なのかよくわからない。
女性が水を持ってきてくれた。落ち着いた、感じのいい女性だった。
「注文はおきまりでしょうか」
右隣の男は麺を食べていた。中華そばか。ラーメンだろうか。初めての店で注文に迷ったときは、中華料理店ならラーメンを食べてみれば、その店のレベルがわかると聞いたことがある。
「ラーメンをお願いします」
「はあい、ラーメン一丁」女性店員が復唱した。
「以上でよろしいですか?」
そう言われると腹がへっているから他にも何か食べたくなるかもなあ、と思いだした。するとテーブルの客が、何かをぼりぼりと噛んでいるのが見える。おいしそうだ。焼き豚足だろうか?よそではあまり見ない料理だ。食べてみたい。
「あれと同じものをお願いします」
「おいしそうでしょう。うちの名物なんですよ」
「豚足ですか?」
「ちがいます。食べてからのお楽しみです」
そう言われたら期待しかない。やがて、ラーメンが運ばれてきた。一口スープを啜る。魚介系と鰹節の混ざった上品な出汁。「うまあい!」と思わず口に出た。厨房の主人が嬉しそうに「ありがとうございます」と頭を下げた。そして、味を確かめようとラーメンを見ると小さく切った緑色の葉がかかっている。「これは青ノリですか?」「いいえ。企業秘密ですが…イチジクの葉を干して特殊加工したものです。私たち夫婦のおもいでで使っているんですよ」なあ、と女性店員に言う。恥ずかしそうに女性店員は小首を傾けた。そうか。この二人、夫婦だったのか!
次に出てきた焼きもの。さっきの料理だ。かぶりついたら、その歯応えと舌ざわり。絶妙だ。豚足じゃあない。「何ですか?これ。絶妙なうまさ。どこで修行されたんですか?」
店主はてへへと笑って遠いところを見る目になった。「本当はあっしたち、昔は仕事もせずのんびりとした生活してたんですがね。ある日、こいつが変な奴の話に乗ってね。変なもの食っちまって」「覚醒剤ですか?」「それよりたちが悪い。あ、それサービスでつまんでください」プラ容器に惣菜が入っている。だが、これはリンゴの甘煮じゃないか。
「それですよ。蛇に美味しいからって言われて食べてしまいました。」それが不幸の始まり。それ迄素っ裸で暮らしていたのが恥ずかしくなってね。恥ずかしいとこをイチジクの葉で隠したりしたんですが、神さまの怒りを買いましてね。住んでいたところを追い出されたんですよ。それから住まいを転々と替えましてね。やっとここにたどり着いて店を開いたのですよ」
まさか、と思い壁を見ると、保健所の許可証がある。申請者名は「仇無太郎」あだむたろう。女性が胸に付けている名札は「いぶ」になっていた。
「それは豚の足じゃない。神の怒りで地を這うしかできなくなった蛇の足でこさえたもので、蛇足の揚げ物ですよ」
「というと、あなた方は、アダムとイブですか。旧約聖書に載っている!」
「そうなんです。九三〇歳まで生きたと言われていますが、まだまだこの先長いようです。これから、こちらで商いをやらせて頂きますんで、末永くおつきあいして頂ければ幸いですよ」
そう言って帽子をとって店主のアダムは深々と頭を下げた。茶色い髪はふさふさとしている。
「また来ますよ。こんなにおいしい店だとは。他のメニューも楽しみです」
私は勘定を払って店を出た。また来よう。何という名前の店だったっけ。看板を見る。
――中華料理 失楽園
こんな名前あるんかい!あってもおかしくないよ。でも、あるんだよね。

第246回 おでんが消える

春だなぁ。暖かくなったなぁ。そう思うと、ふと、おでんが食べたくなった。
冬の日々の楽しみだ。もう一回くらい、今シーズン最後のおでんを食べておきたい。
こんにゃく、大根、タマゴ、厚揚げ、とりあえず、そんなものでいいか。
近くのコンビニへ歩いていく。あれっ?おでんケースがない。どんなに探してもない。
「おでん。終わったんですか?」
店員は新人らしく「おでん…?うちにはありません」変だなぁ。もう終わったのかな。いや、近くに、もう一軒コンビニがあった筈だ。足を伸ばしてみよう。とぼとぼと次のコンビニまで歩く。歩いていると、おでんの妄想が膨れあがっていく。そうだシラタキとお餅も食べておきたいなぁ。
「おでん、ありませんか?」
「おでん…何ですか?それ」
店員は浅黒い肌の色。日本人ではないのか。おでんのこと知らなくても仕方ないな。もう一軒行ってみよう。ここ迄くると、意地になっているかもしれない。おでんを食べたくて頭がはちきれそうだ。
次のコンビニ。ない!
「おでん、終わったのですか?」
「おでん…?何ですか、それ」
「ほら、出汁で色んな具が煮込まれている冬の…」
店員が不思議そうな顔をするので馬鹿馬鹿しくなって説明をやめた。
それで、おでんを食べたい欲望が鎮まるどころか、かえって火がついた。どこへ行けば、おでんが食べれる?居酒屋の前に旗が立っている。その旗のうち一本には必ず、おでんと書いてあったぞ。
行きつけの居酒屋に到着。なんと。ない!ない!焼きとり、生ビール、焼酎はあっても、おでんがないなんて。
頭の中で疑問符が渦巻き、やれたまらずに店内に飛び込んだ。そして尋ねた。
「こちらのお店に、おでんはありましたよね!」
出てきた店主は首をひねって言った。
「おでん…?そりゃぁ、何ですか?聞いたことありませんが」
あいた口が閉じなくなった。居酒屋の店主がおでんを知らないなんて。信じられない。おかげで世の中に、おでんが昔から存在しないような気分になるではないか。そんな筈はない。必死で思い出す。最後に店でおでんを食べたのはいつのことだったろう?どこで食べたっけ?
思い出した。お好み焼屋だ。モダン焼を食べに寄ったとき“おでん はじめました”の旗が吊るされていたから、折角だから、と、こんにゃくと大根、牛スジ串を食べたよな。
早速、その店へ。表の黒板にメニューが。お好み焼、モダン焼、焼そば、と書かれていた筈。そうだ。焼そばの隣におでんと書かれていた。あ…!
なんと、焼そばの隣の行は空白になっていた。その隣に、生ビール、焼酎と書かれている。
おでんの行だけが消えている。そんな筈はない。店の戸を開こうとしたが、堅く閉じられていた。もちろん“おでん はじめました”の旗もない。
世の中で何か異変が起こっている。存在している筈の“おでん”が世の中から消滅し始めている。そんな馬鹿なことがあってたまるものか。
友人に電話をかけた。
「おい、おでんを売っている店を知らないか?どこにもおでんを売っていないんだ!」
ところが、友人の答は……。
「おでん?それは、いったい何だ?」
意外な言葉に開いた口がふさがらない。
おでんとはどういう食べものか説明しようとして、むなしくてやめた。
もう、おでんを食べるのは無理のようだ。
部屋で何度もため息をつく。すると、突然背中で気配がする。振り返ると見知らぬ白い髪の老人がいた。
「あなたは誰ですか?」
「わしは万物のグルメの神だ。美味しいものを愛する者の願いをかなえておる。お前も、美味しいものが大好きと見た。おでんか、最近はおでんを望むものがおらんで、消失させたのじゃ。まだ、おでんを愛する者がおったとはのう。もう誰もおでんを覚えておらんと思ったが、おぬし、よほどおでん好きなんじゃのう。お前の頭の中を覗いたら、ようわかった。悪いことしたのう。おわびに地図をやろう。ここに行けば願いがかなうぞ」
その地図に×印が書かれている。「ありがとうございます」
「おお、よかった。次の者のグルメの願いをかなえてやらんとな」
グルメの神は、次の瞬間消えてしまった。
早速、お告げに従い、地図の×印を目指すことにした。
山の奥の×印の場所。なんとそこに広い池があった。いや、ちがうぞ、これは温泉だ。あたかも入れと招いているような。服を脱ぎ、どぼんと飛び込む。これは…ただの温泉じゃない。湯を口に含む。おでん出汁だ!ぷかりと、何か浮かぶ。見て驚く、巨大な大根だった。かぶりつくと、これこそ理想のおでん。うまい!次にぷかり!糸こんにゃくだ。全身絡めとられつつ、至福の気分だ。超巨大なちくわぶ、タマゴが浮かんでくる。こんな理想郷があったとは!これはおでん天国だ。嬉しさに天を仰いだときだった。巨大な箸が天空から迫り、私を挟んで持ち上げる。箸の上には巨大な目が。その目は美味しいものを求める目だ。
グルメの神が願いを次にかなえたのは……こいつか。そしてその異形のグルメが求めるものは……!
私は絶叫をあげた。

第245回 宇宙の果て

仕事から帰ると玄関の前に見知らぬ人々が待っていた。黒い服を着た屈強そうな人々ばかり見える。私に用があるのだろうか?こちらは何も思いあたらない。自分でも気づかないうちに何か悪いことでもしでかしたのだろうか?わからない。
皆は私が帰宅したことで、色めきたった。間違いない。やはり彼等の目的は私のようだ。
逃げるべきか?どうするべきか?おろおろしていると、黒服の男たちの間から白い研究者服の老人がおずおずと姿を現した。そして私の名前を叫んだ。「はい」と答える。
老人は「おお」と叫び喜びを隠しきれぬように駆け寄ってきた。
「やはり、実在したのか!全世界の情報ネットワークを駆使して、やっとあなたにたどりついた。そしてあなたは、ここにいる。まさに、これこそ宇宙の神秘ではないか!」
私は疑問をそのまま口にした。「いったい、あなたは誰なのです?私がいったい何をしたというのです?」
それもそうだと白衣の老人は頷き言った。
「私は、天才天文学者じゃ。日々、宇宙の果てがどうなっているのか?その謎を解くために研究を重ねておるのじゃ」
自分のことを天才天文学者と名乗るとは。
「そんな科学者が何故、私を訪ねてこられたのです」
彼は大きく頷き、そして答えてくれた。
「実は、これまでは宇宙の果てを観察することのできる精度の高い観測機器はなかったのじゃ。電波や宇宙の銀河が離れる速度や、星の明るさや色の関係を考えて算出したりしておった。だが、現実には、宇宙の果てを目視して観察することは、できなんだ。しかし、人類の科学技術の進歩はとどまるところを知らない。遂に私の天文研究所では、銀河のはずれの遠いところまで自分の目で観察できる、目視による装置を完成させたのだ!」
それは、天体望遠鏡のようなものなのだろうか?そんな報道は聞いたこともなかったのだが。
まてまて。だからといって、この自分を天才と名乗る天文学者はなぜ私の前に現れたのだろうか?私といえば、宇宙も銀河も、縁のない人間なのだ。もっと言えば夜空の星さえ見たことがない。そんな私には何の関係もないことではないか。
何故、天才天文学者がそんな私の前に?白衣の老人は話を続ける。
「早速、私は全宇宙の真理を知るために、その観測装置を始動させ、さまざまな観測を始めたのじゃ。そして宇宙の果ての映像が、刻々と私のもとに届き始めた。これは、もう神秘の連続としか、言いようがなかった。
何もない宇宙空間の果てで、装置が捉えたものは想像を遥かに超えたものだった。まさに、それは謎!そのものだった。」
「宇宙の果てはどうなっていたのですか?」
さすがに私もそこ迄聞かされては、興味が湧いてくる。白衣の老人は私を指差した。
「これは宇宙の果てを撮ったものじゃ。さて、あなたには、この宇宙の果ての写真は何に見えるであろうかな?」
そして老人は数十枚の写真を私に渡す。宇宙の果ての写真……?予想とまったくちがう。最初の写真には誰かの鼻が写っている。次の写真は胸だ。男のようだ。次は、これはどう見えても…お尻。これが、宇宙の果ての写真?
見知らぬ男の身体の一部じゃないか。これは誰だ?
「すべて、宇宙の果てを撮った写真なのじゃ。しかも、すべて人の姿の一部に見えませんかのお?トリック写真などではもちろんない。そして、すべての写真をつなぎ合わせると、なんと、一人の人物になる、とAIは教えてくれた。それが誰なのか?どこにでもいそうな人物に見える。不思議なことじゃ。宇宙の果てで生まれた謎は解かれなければならん。この写真群のデータを分析して、この宇宙の果てに存在している、人のような何かが何者なのか!ついにつきとめた。
それが……あなたなのだ!」
びっくりした。宇宙の果ての写真に写っているのは、すべて、私ということなのか……!そう…私の鼻や胸やお尻。
よく理解できない。いや、どう理解すればいいのだろう?
なんとなくわかった気もする。私自身は一人の人間だが見方を変えれば、私が、この宇宙のすべてを包みこんだ状態で生き、そして暮らしているのだ。とすれば私も宇宙の果てにいるという見方もできるのではないか。いや、地球に何十億という数の人間がいるということは、何十億という宇宙に包みこまれているという考え方もけっしておかしくないのではないか?
こんがらがってきた。
私の身体が裏返しになって宇宙を包みこんだ姿を考えれば……まさしく宇宙の果てで、宇宙を包みこんでいるのは、私ということで間違いないということになる。
それが、私が存在する、この宇宙の真理ということだ。
「待ってください。たしかに宇宙の果ての写真に撮られたのが、すべての私なら、私の宇宙でしょうね。同時に、天才天文学者のあなたが取囲む宇宙も、黒服の男たちが取囲んだ宇宙も、当然、存在しますよね。それでいいんですか?不思議ではないのですか?」
白衣の老人は、それもそうだという風に考えこむ。そう考えれば、この世に存在する人々や生物の数だけ宇宙は存在することになるということになる。
黒服の男の一人が「今、新たな宇宙の果てのデータが届きました」と駆けよってきて、写真を白衣の老人に見せる。
老人は「おお」と叫ぶ。「何と新たな宇宙の果てが」
「データを分析しています。宇宙の果てのこの近くに住む女性のようです」と黒服の男。
「何と!こんなことをしておる暇はない!新たな宇宙の果てを確認しなくては。しかも、今度の宇宙の果ては、若く美しい女性ではないか!」と白衣の老人は新しい天体を発見した興奮で叫ぶ。そして、私を尻目に新たな宇宙の果てへ走っていった。ぽかんと私は老人たちを見送る。
呆れ果てたものの、ようよう気をとりなおした。
やれやれ、やはり、この世は宇宙の謎だらけだ。

イラスト