商品の価格改定について

高橋酒造株式会社は、本格焼酎、ギフト商品の価格を2022年10月1日(土)より改定いたします。

弊社では、付加価値の高い高品質で安全・安心な商品をご提供していくために、経営の効率化とコスト削減に向けた努力を重ねてまいりました。
しかしながら、前回(2008年)の価格改定から約14年が経過しておりますが、その後も諸経費は上昇し、特に主原料や資材・包装費用などの原材料費のほか、エネルギー費、物流費等が高騰しており、もはや企業努力だけでこれらのコスト上昇分を吸収することは困難となりました。

今後も引き続き、高品質で安全・安心な商品をご提供できるよう努力してまいりますので、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

1.価格改定日  2022年10月1日(土)当社出荷分より
2.対象商品   本格焼酎、ギフト商品
3.改定の内容  本格焼酎は参考小売価格の約4%~6%、
         ギフト商品は同価格の約8~10%の値上げ

2022年8月1日
高橋酒造株式会社

第214回 上天草の油すましどん

 上天草の東部を走っていると栖本町に入る。栖本町は河童伝説が有名で、河童の看板やオブジェが多い。見つけると心が和む。このまま進めば、ほどなく天草市本渡になるな、とぼんやり思う。あてのない日曜ドライブだった。
 すると意味不明の看板標識が目に飛び込んできた。青い囲みに青い文字だった。
〈油すましどんの墓〉
 油すましどんのお墓?油すましどんってどんな人?いや、人か?水すましみたいなもの?
 その標識のある場所は空き地になっている。そこに愛車を駐めた。何か気になった。油すまし……油すまし……。聞き覚えがあるからだ。
 車を降りると看板があった。
 油すましの解説だ。大まかには、こうある。

ーこの峠には「油すましどん」という妖怪の昔話が残る。河内村へ帰る老婆が小さな孫の手を引いて、草積峠へさしかかったとき「昔は、こんなところに油すましどんが出たんだよ」というと、「今でも出るぞー」と言って油すましどんが現れた。これを民俗学の父柳田國男先生が民俗誌の連載で「アブラスマシ」という妖怪を紹介したところから広く知れ渡るようになった。昭和五十七年栖本町民俗調査で、河内町に「油すましどんの墓」といわれる供養塔が存在することが発表された。
 この地区では油すましどん伝説を継承し、油すましの里づくりに取り組んでいる。ー

 そうか。聞き覚えがあると思ったら、妖怪にゆかりの場所か。油すましとは椿油を絞ることのようだ。それがなぜ、妖怪なのかはわからない。妖怪だからかなり怖い姿をしていたのだろうか?
〈油すましどんの墓〉の標識には矢印がついていた。せっかく車を降りたんだ。歩いて行ってみるか。妖怪の墓なんて、どんなのだろう?
 好奇心が優先した。矢印に従って県道から右折する。軽自動車がやっと一台通るほどの田舎道だった。道の左右は農地だ。背後の県道もあまり車の通りは多くはないから、辺りはあくまでも、のどか。あくまでも静かだった。
 ここに妖怪が出現したのか、と考えると意外な気がする。遠くで小鳥が鳴いている。あやかしとは一番縁がなさそうな場所ではないか。昔はこの辺りは拓けていなくて鬱蒼としていたのだろうか。
 待てよ?と思う。油すましどんというのは本当に妖怪だったのだろうか?老婆と孫が話をしていたのは「ここいらに油しぼりをする人たちが昔おってな」ということだけ。そこを通りかかった椿の油しぼりの職人が「今もおるぞ」と自分のことを答えただけではないのか?それが妖怪の連載の中で柳田國男が紹介しただけで「油すましどん」は妖怪に分類されるようになったのではないか?話の中では妖怪らしい姿も語られないし、不思議な行動をしているわけでもないし。
 本当に妖怪なのかな?
一本道をとぼとぼ歩くが畑ばっかりでそれらしきものは見えない。小さな橋を渡り、まだ進むが油すましどんに関する標識はない。道がつきあたり、左右に分かれるが、どちらに行ったものか?迷う。引き返そうか。
 プッと音がする。振り返ると白い軽トラックが停まっていた。ぼんやりして道を塞いでしまっていたのだ。「あっ、すみません!」と頭を下げる。軽トラックには地元の人らしい痩せた小柄の老人が乗っていた。そうだ。尋ねてみよう。
「あ、すいません。油すましどんはここいらに?」老人は、ほう、と頷き「すぐそこ」と指差す。「珍しかなあ。油すましどんばねえ」と言って追い越して走り去ってしまう。その山道を辿ると、木製の看板があり今度は〈油すましどんの里/ようこそ!〉と書かれていた。墓じゃないのか。下に降りる階段があり首のない石像が三体祀られていた。これだけ?これが油すましどん?
 拍子抜けした。こんなものなのか。誰かの供養塔ではあるのだろうが、明治政府の神仏分離政策、廃仏毀釈によって首がもぎ取られた結果がここにあるのだろうな。しかし、首はなくとも石像は地元の人たちに手入れされ、守られている。それで十分かもしれないな。
 油すましどんが本物かどうかは、どうでもいいのかもしれない。伝わる石像たちが地元の人たちに大事にされていることがわかるだけで。
 さあ、県道まで戻るとしよう、と山道を下り始めた。すると後方から、聞いたことのあるプッというクラクション。さっきの老人の軽トラか?と振り向く。やはりそうだった。見つけました!とお礼を言う。「さっきはありがとうございます。おかげで油すましどん、わかりまし……」しかし…。
 軽トラから顔を出したのは中年のおばさん。訝しげに私を見た。そして言った。「はあ?さっき?会ってないよ」人違いなのか。
「てっきり、さっきのおじいさんかと。この道の先に行かれたので戻ってこられたのかと。同じ白いトラックだったので」
 中年のおばさんは首を傾げる。
「この道は行き止まりだよ。私は誰ともすれ違っとらんが。油すましどん見にきたのかね」「そうですが」「そりゃ、油すましどんが教えたんじゃないかね?この場所」「さっきのおじいさんが妖怪?この現代に?ここで…?」中年のおばさんの顔がぐにゃりと変わって痩せた老人になった。老人はニヤリと笑った。そしてあんぐり口を開いた私に「今も出るぞー」

「酔彩画展」in SAKURA MACHI Kumamotoのお知らせ /8月4日(木)酔彩画ワークショップも開催決定!

このたび、熊本の「SAKURA MACHI Kumamoto」にて下記酔彩画イベントを実施致します。
どちらのイベントも「参加費無料」となります。

【会場】SAKURA MACHI Kumamoto
    1Fメインエントランス
【イベント概要】
https://sakuramachi-kumamoto.jp/event/suisaiga
※詳細はSAKURA MACHI Kumamoto様のHPよりご確認ください

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【イベント①】酔彩画展

期間:2022.8.4(木)~ 2022.8.15(月)
時間:10:00~20:00
場所:SAKURA MACHI Kumamoto
   1階メインエントランス
内容:小山薫堂氏とイラストレーター10名が描いた酔彩画ボトルを展示

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【イベント②】酔彩画ワークショップ(各回先着15名/予約制)

日付:2022.8.4(木)
時間:1回目 18:00 ~ (約45分)
   2回目 19:30 ~ (約45分)
場所:SAKURA MACHI Kumamoto
   1階メインエントランス
内容:ゲストに熊本出身の放送作家小山薫堂さんとプロイラストレーターの小池アミイゴさんを迎えて、白岳しろのボトルに絵を描くワークショップを実施。
《予約フォームはこちら↓↓》
https://suisaiga.peatix.com/view
応募はこのフォームからのみで、電話応募等は受け付けておりません。ご了承下さい。

備考:参加は20歳以上の方限定です。必要に応じて年齢確認をさせていただく場合がございます。

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東京で過去実施した酔彩画イベントが、ついに熊本に凱旋。酔彩画ワークショップは毎回好評のイベントですので、ぜひ奮ってご参加ください。

【ご注意】Instagramキャンペーンの偽アカウントにご注意ください。

お客様各位

現在Instagramで実施中のキャンペーンにて、白岳しろ【公式】アカウントになりすました偽アカウントから、
キャンペーンの当選通知を装ったDM(ダイレクトメッセージ)が発信されております。

お客様におかれましては、白岳しろ公式アカウントを装った偽アカウントからのDMへ返信、
プロフィールやDMに記載のサイトへのアクセスやクレジットカード番号等の個人情報の入力なさいませんよう、
十分にご注意いただきたく、お知らせ申しあげます。

白岳しろ【公式】のInstagram公式アカウントは下記になります。
https://www.instagram.com/hakutake.official/

尚、8月31日までに当選のDMをお送りすることはございませんので、くれぐれもご注意くださいませ。

【熊本】花畑広場のイベントに出店中!【7/22(金)~7/31(日)】

このたび、くまもと街なか広場(花畑広場)で開催中の『Hanabata Hiroba Square Festival Summer Edition』に出店します。

◆『Hanabata Hiroba Square Festival Summer Edition』について

【開催期間】
2022年7月22日(金)~7月31日(日) 10日間

【開催時間】
[月~木]17:00~20:00
[金]16:30~20:00
[土・日]15:00~20:00

【開催場所】
くまもと街なか広場(花畑広場)
https://hanabatahiroba.jp/

【入場料】
無料

今回のイベントでは、KAORUハイ、キンハイ、ギンハイ、しろハイの4種類の白岳ハイボールが1杯400円(税込)で楽しめます!

白岳しろキッチンカーも登場しますので、ぜひ白岳ハイボールと一緒に写真を撮ってみてくださいね。

ご来場お待ちしております!

白岳しろ公式Instagramで豪華プレゼントキャンペーンがスタート!

このたび、白岳しろ公式Instagramを“フォロー”して投稿に“いいね”するだけで
豪華プレゼントが当たる「フォロー&いいねでもらえる夏の豪華プレゼントキャンペーン」がスタートいたしました!

◆キャンペーン概要◆

【キャンペーン期間】
2022年8月31日(水)まで

【応募条件】
①白岳しろの公式Instagramアカウントをフォロー
https://www.instagram.com/hakutake.official/
②アカウント内の投稿にいいねをする
※応募は20歳以上で日本国内在住の方に限ります

【当選人数】
5名
※当選は商品の発送をもって代えさせていただきます

【豪華プレゼント5点】
・白岳しろ720ml
・白岳KAORU900ml
・白岳しろオリジナルTシャツ
(色・サイズは選択できます)
・白岳しろ&白岳KAORUプラカップ
・白岳しろマドラー

アカウントをフォローして、いいねをするだけで豪華プレゼントがゲットできる素敵なキャンペーンとなっております!

白岳しろ公式Instagramではここでしか見ることが出来ないレシピ写真や人吉球磨の素敵な風景写真を投稿しておりますので、ぜひこの機会にInstagramをチェックしてくださいね!

【shiromap(しろマップ)】追加店舗のお知らせ 6月分

関東で白岳商品を飲みたいとき・買いたいとき、すぐにお店が探せるshiromap(しろマップ)!

「追加されたお店を知りたい!」とのお声に応えて、
前月追加店舗をお知らせいたします。

2022年6月は下記店舗が追加されました。

■飲めるお店:13店舗
・加賀屋 本郷店
・居酒屋 藤吉郎
・万蔵
・魚串 鬼おろし
・UOTAKU
・創作居酒屋 たつや
・飯家くーた 銀座二丁目店
・いろり家 東銀座店
・Uki Uki BAR(うきうきばる)
・とめ手羽:4店舗

■買えるお店:126店舗
・ライフ:126店舗

↓shiromap(しろマップ)はコチラからご利用できます。
https://www.e-map.ne.jp/p/shiromap/

【東京】天真爛漫×白岳KAORU BAR@ニューみるく開催決定!

楽しいことが大好きなみなさま、大変お待たせいたしました。
あの伝説の夜が帰ってきます。

このたび、熊本の超人気焼酎BAR「天真爛漫」と白岳KAORUの期間限定コラボイベント「天真爛漫×白岳KAORU BAR」の開催が決定!
前回、人気を博したイベント「出張 天真爛漫」の第二弾となります。

熊本の飲み屋街で知らない人はいないと言われる名物オーナー中川ひとみママをはじめ、老舗和菓子店「空也」の5代目でDJアンコマンとしても有名な山口彦之さんが白岳KAORU等を使ったカクテルと共に東京の夜を酒と音楽で盛り上げます。

イベントの舞台は、東京・丸の内ハウスの「ニューみるく」。
かつて恵比寿に店を構え一世を風靡した魅惑のナイトクラブ「みるく」が、装いを新たに「ニューみるく」として帰ってまいりました!

イベント期間は7日4日(月)~8日(金)までの5日間(※金曜日だけ営業時間が異なります)で、丸の内ハウス「MUSMUS」の絶品おつまみも楽しめるおすすめのイベントです。

当日は中川ひとみママの止まらないトークと白岳KAORUの甘い香りで楽しく酔わせていきますので、ぜひお誘いあわせの上お越しください!

第213回 グルメの神さま

 私の趣味は、おいしいものの食べ歩き。皆はネットのグルメ情報で探すらしいけれど、私はあまりあてにならないと思っている。グルメ情報に低い点で載っていてもおいしい店があるし、高い点でも予約が取れなかったり高かったり、それほどの味でなかったり。だからけっこう自分の勘で店に入ることが多い。
 その日の昼どき。市内から外れた場所を通りかかるとうどん屋が。駐車場にもたくさんの自動車。人気店のようだ。ここで食べよう。飛び込む。店内もたくさんの客。入口で注文をとっている。え、何を頼めばおいしいんだ。汁と麺の組み合わせで”熱つ熱つ””熱つ冷や””冷や熱つ””冷や冷や”があるらしい。迷っていると後ろがみるみるならび始めた。ど、どうしよう。
すると視界の隅のテーブルで食べている貧相な老人が私を見て言った。
「迷ったら”冷や冷や”を頼んだらいいよ」
 これ以上迷ったら後ろの客に迷惑がかかる。私は言った。「”冷や冷や”お願いします」
 席に着く。うどんを食す。うまい。歯応え。汁と麺の冷やっこさ。全身が覚醒した思いで、むさぼり食べた。食べ終わり大きな溜息を吐き立ち上がった。アドバイスは正しかった。勘定を払う前にテーブルの老人に礼を言おうと探した。
 だが、姿はない。いつの間に店を出たのだろう。あれは誰?特徴ある口調と貧相な風体に似合わぬ眼光を放っていた。しかし、消えた。そのとき私は思った。あの人は、只者ではない、と。
 私も単純な人間だ。数日後にはすっかり彼のことは忘れてしまっていた。そして、その夕刻。晩飯を食べて帰らねばならぬ時間。繁華街から少し離れた駅裏。数軒の食堂や居酒屋が並んでいた。どの店に入ろうか。またしても迷う。数軒の店を見比べていると一軒からほろ酔いの老人が足をよろめかせながら出てきた。そして、すっくと私の前に立つ。
「どの店で食べるか、迷っとるのかね」
「え。ええ」と答えながら、老人の眼光と声に覚えがあることに気がついた。思い出した。あの”冷や冷や”うどんをすすめてくれた…。
「ここの焼き鳥。絶品だ。誰も知らんだろうがな」
 狐につままれたような気分で、私は言われるままに老人が出てきた店に入ろうとした。ふと、我に戻り老人の姿を探したが掻き消したようにいなくなっていた。仕方なく、店内でカウンターに座りひととおり串を焼いてもらうことにした。
 鶏皮から手羽と続いた。頬張り目を開く。タレも塩も……これぞ絶品の焼き加減。しかも肉そのものも新鮮だ。ツクネも手造り感に舌が歓ぶ。なんだ、こ…この焼き鳥は……。まさかこんな名店だったとは。しかも客はぼちぼちの入り。あの老人が教えてくれなければ、私はこの店のことは知らないままだった。そのうまさに視線も定まっていなかったようだ。炭火で鳥串を焼いていたおじさんに声をかけられた。
「お兄さん。うちは初めてですね」
「え、ええ。こんなにおいしい焼き鳥は初めてですよ」
「嬉しいねぇ。どちらさんからのご紹介ですか」
「はい。迷っていたら、この店からさっき出て来られた方が、ここの焼き鳥、絶品だって」
 思いあたらないらしく頭をひねっていた。私は言った。
「年齢を召した……眼光鋭い……」
 それでも、ぴんと来ないのか、私とおじさんの会話は途絶えた。あいかわらず出てくる焼き鳥はどれもおいしい。謎の老人が誰なのかをいろいろと考えた。なぜ、私に教えてくれるのか?どこかで会ったことがあるのだろうか?そして、店の人は老人のことをなぜ覚えていないのだろう?そこで、ふと思いつくことがあった。ひょっとしたら、あの人は神さまではないのか。おいしいものを知り尽くしたグルメの神さま…。だから、私に教えてくれる……。そう考えると妙に納得できた気がした。焼き鳥があまりにもおいしかったので、寝たきりの母へのお土産に折に詰めてもらった。母は焼き鳥が好物なのだ。案の定、こんなにおいしい焼き鳥は生まれて初めてだと喜んでくれた。そのとき母が願ったこと。「子供の頃食べたプリンをも一度食べたいねぇ。方々売ってあるけど、全部ちがう」母の願いなら、叶えてやりたいが、どこで買えば正解なのかわからない。プリンなんてどれも同じだろう。ずっとそれからプリンことが頭に引っかかっていた。ある日、小さなケーキ屋を通りかかると、見覚えのある老人がいる「ここのプリン、いいと思うよ」神さま?
 騙されたつもりでその店のプリンを買う。店の外に出たら老人の姿は、すでにない。
 母のベッドに持って行く。母は口にするなり「これだよ。この味。固さ、甘さ。幼い頃を思いだすよ。もう思い残すことはない」なんと母は大喜び。そして、その翌日、安らかに息を引き取った。寿命だったのか。間に合ってよかった。
 それからグルメの神さまに会うことはなくなった。どんなに気をつけていても再び姿を現してはくれない。ほんとうにあれは神さまだったのか?幻を見たのではないのか。そうして時は過ぎていく。
 ある日、あのうどん屋の前を通りかかった。なんとも懐かしい気持ちで、うどん屋に飛び込むと、案の定、大入りの客で賑わっていた。行列に並び、”冷や冷や”を注文した。テーブルの隅に座り、すすった。
 うまい!この味だ!神さまに教えてもらった。
 ひとしきり食べて立ちさろうとすると列が止まっている。見ると列の前で若者が注文に迷っている。なかなか決まらないので後ろの客は不満のようだ。「迷ったら”冷や冷や”を頼めばいいよ」そう口にした。若者は目を輝かせて注文した。その若者の目にはどこか見覚えがあるような。ひょっとして、この若者とどこかでまた会うかもしれないな。

第212回 ことわざの日

 今日が「ことわざの日」であることは、朝のニュースで知った。なんでも、他人と話すときは会話の中に“ことわざ“を入れないと違反になるらしい。キップを切られて罰金を取られたり、悪質な場合は逮捕されたりもするということ。なぜ、そんな日なのだろう。と思ったら、文部科学省の発案らしい。正しい日本語を学ぶ委員会から「廃れゆく日本の言葉や言いまわしを守る日」を作るという提言がなされ、制定されたらしい。毎年テーマがあり、第一回の今年は「ことわざの日」にすると発表されたとのこと。実施時間は、午前九時から午後五時まで。それを知ったのが朝の八時半。
 あせった。
 よく考えると「ことわざ」をほとんど忘れているのだ。
 家を出るとき妻に愚痴る。「ことわざなんて思いつかないよ」すると妻は「いってらっしゃい。案ずるより産むがやすし」
 まだ九時になっていないのに、ことわざが入っていてびっくりした。こやつ、できるな。「いってきます」「いってらっしゃい。サイは投げられた」
 会社に着くと、女子社員たちが掃除をしていた。「おはよう」と挨拶してはっとする。こんなときに加えることわざは……「いやあ、早いな。いずれあやめかカキツバタ」と心にもないことわざを思いついて口にした。女子社員たちがどっと笑った。「早起きは三文の得ですから」と一人が私に返した。さすがだ!と感心する。
「やあ、みんなおはよう」山田部長が出社してきた。なにもない。言葉にことわざが続かないないので、女子社員たちは顔を見合わせた。山田部長はことわざの日のことは何も知らないのだろうか?
 すると、遠くから大音声が響く。「山田部長、ことわざの日アーウト!!油断大敵!」どこに潜んでいたのだろう。全身真っ黒い服を着た男たちが現れ、山田部長に駆け寄ってきた。それから四つん這いにさせるとズボンを剥ぎ、真っ黒いオールのようなもので尻を強く引っ叩いた。痛いのだろう。山田部長は涙を流して、女の子のような悲鳴をあげた。それからやっと彼は今日がことわざの日だったことを思い出したらしく「後悔先に立たず」と言ったが遅すぎたようだ。挙句に、山田部長は違反キップを切られていた。尻を叩かれた上に罰金とは……泣っ面に蜂ではないか。
「まさに、世の中一寸先は闇ですね」と同僚が言った。さすがだ。始業と同時に、私は営業回りで得意先に行く。こんなときは、経理や総務はいいなあ、と羨ましく思う。だって不必要な会話をやらなくて済むのだもの。外に出ると黒い服のさっきの日本語監督官たちがうろうろしていて緊張してきた。すると、よちよちとお年寄りがこちらに近づいてきた。紙を見せた。道を私に尋ねようというのだ。「ここに行きたいのですがね。教えて下さい。老いては子に従え」心臓がばくばくする。しかし、無視もできない。「はい、こう行って、こうですね。混むときはこちらへ。急がば回れ」お年寄りは頭を下げて去っていった。
 得意先に着く。「こんな日に営業に来るとは。まさに時は金なり、の仕事熱心」と、そつなく対応された。「いえ、若いときのしんどは買うてせよ、ですので。恐れ入ります」「おお素晴らしい。今日会う連中は、皆、緊張か幽霊の浜風だからねえ」え、幽霊の浜風もことわざなのかぁ。知らなかったなあ。
 急いてはことをしそんじるとか、悪銭身につかずとか、あるとき払いの催促なしとか、よくしたもので商談の間もさまざまなことわざが挟まれ、使いなれないことわざがこんなにあったのか!と感心した。
 やっとのことで1日が終わり退社した。しかし、これほど疲れる一日になるとは。
 もう五時を過ぎていて、なんとか無事にことわざの日をやり過ごすことができた。日本語監視官の姿も無くなっているようだ。
「ただいま」と家に帰る。妻が「一日、お疲れさまでした」と声をかける。「うまく過ごせました?」「ああ、水火を辞せず、というやつだよ。当たって砕けよ、だ!」今頃になってことわざがすらすらと出てきて驚いた。「しかしなんで、こんな日を作ったかな。日本語が乱れているとはいえ」
 すると妻は「悪法も法なり、ですから」と平然と言った。たった一日で、ここまでことわざの日の効果が浸透するとは。
「だけど、ことわざの日も一日だけだと言っていたよね。ということは、来年の廃れゆく日本の言葉や言いまわしを守る日はないのかな?」
「あら、知らないの?もちろん、あるのよ。内容は変わるけれど」
「内容が変わるの?どんなん?」
「来年はね。朝九時から午後五時まで“早口ことばの日“になるのよ。生麦生米生卵とか、東京特許許可局とか、ジャズ・シャンソン・歌謡曲とかを人と話す前に必ずいう日なんだって」
「ふえええ。また一日中、それかよ」
「さ来年はまたテーマが変わるの。その日は会話には気をつけなくていいの。その代わりにショート・ショートの日になるの。その日のうちに国民は全員ショート・ショートを書かなくては……」ショート・ショート!私はめまいがしてきた。

※このカジシンエッセイからショート・ショート集が出ました。新潮文庫から「おもいでマシン」です。40の選りすぐり作品でおもてなししますので、よろしくお買い求めくださいませ。通勤電車でもトイレの中でも、あっという間に一話読んでしまえます。ご贈答にもどうぞ!(作者より)