恋人の和子が行ってみたい食堂があるという。レストランでもなく、オープン仕立てのカフェでもない。
食堂というのが不思議だったが、和子がごちそうしてくれるというならかまいはしない。
出会って半年というところか。私好みの美人だった。知り合ったのはSNS上だ。和子の投稿に私がコメントしたのがきっかけだった。たがいにコメントをつけあうようになって、同じ地方都市に住んでいることがわかり、話題も盛り上がっていった。おたがいにダイレクトメールで顔写真を交換すると、和子は意外と美人ということがわかった。気に入った。
それは和子も同じのようだった。
私が和子に夢中になっていったのは当然のことだろう。だから、コメントをSNSで交わしあう内に、自分をカッコよく見せたい気持ちもあり、かなり脚色して書き込んだ部分もある。収入は現実の三割増しくらいで伝え、学歴も詐称してしまったのは反省してる。
そして私は和子と実際に会った。SNSでは写真と実物が別人くらい食い違っているケースが多いのだが、和子は写真通りの美しさと可愛さだった。私の好意が愛情に変わった瞬間だった。
それから私は和子に好意を持たれるように、自分のすべてを繕って彼女に接するようになった。出会う前に写真だけは私の日常のものを見せていたのだが、幸いなことにそうハンサムでもない容姿を和子に気に入ってもらえたことには、感謝してもしきれないのだ。
私と和子は交際を続けることになった。そして、私は和子に結婚を申し込むことにした。
「大事な話をしたいのだけれど」と伝えると、店で食事をしながら聞く、という。それがこの“行ってみたい”食堂だったというわけだ。警察署の隣りにあるからすぐわかると和子は言った。
店はすぐにわかった。
小さくて古かった。昭和の初めからあったかのような食堂だった。すでに中で和子は待っていた。老夫婦でやっているようだ。和子が選ぶくらいだ。そんなに美味しい食堂ということなのか。
「日替わり定食でいいですか?」と和子が言う。それで構わない。お婆さんがすぐに持ってきた。変わったところもないアジのフライと豚汁、それにご飯と香の物。「いただきます」と箸をつけた。普通の味だ。出来立てということを除いては特別に美味しくはない。ただ、懐かしい味だった。
「話ってなんですか?」食べ終わると和子が尋ねる。もっと考えながら伝えようと思ったのに、素直に口から出て自分でも驚いた。「和子さん、結婚してください」
彼女はすぐにはそれに答えず、私に尋ねてきた。
「経済的にやっていけるの?」
そうだ。これまで私は彼女に見栄を張ってきた。「実は前に言ったのは嘘で、薄給なんだ」なんで正直に言ってしまうのだろう。
「そうですか。他に嘘を言ってたことはないんですか?」
「あ。学歴は高卒でした。国立大卒と言ったのは嘘で、和子さんに好かれようと」
どうしたというのだろう。尋ねられると、これまでついていた嘘を白状してしまうのだ。まずいと思うが、止められない。
「趣味は読書と言ったけど、本なんてこれまで三冊しか読んだことない」
言葉が下痢症状を起こしたかのようだ。
「でも、これだけは本当だ。和子さんのことが大好きだ。一生愛してる」
「私も本当のことを言うわ。私は四十二歳。あなたより一回り上よ。それでもいいの?」
「もちろんだ。和子さんのことが大好きだ」
和子はじっと私の目を見て、プロポーズを受けると答えたのだ。私は大きくため息をついて安堵した。そして言った。「ありがとう」と。
「なんでこの店を選んだかわかる?」と和子が言った。わかるはずもない。
「ここは伝説の食堂なの。『正直屋食堂』といって、ここの料理を食べると本当のことを話さずにはいられなくなる…と言われてる。だから、大事な話と聞いたときに、ここで食べながら、ってお願いしたのはそういうことよ。そしてわかった。伝説は本当だった。あなたは本当のことを包み隠さず話してくれた。そして私も本当のことを話すことが出来た。自分の本当の年齢のことをこれまで誰にも話したことなかったのよ」
それで、この店を…。私は和子の気持ちが少しだけわかったような気がした。彼女は二人の間に嘘がないことを願ったのだ。
「料理はどうでした?美味しかった?」と和子に尋ねられた。「ああ」と答えようとした私だが、口をついて出たのは「うーん。普通の味かな」
それを聞いて和子は満足そうにうなずく。
そのとき、奥で電話が鳴る。お客の注文のようだ。お婆さんがお爺さんに叫ぶ。
「出前が入ったよ。至急、隣の警察署にね。取調室にカツ丼一丁だって」
投稿者: 高橋酒造
【重要なお知らせ】新型コロナウィルスへの対応につきまして
弊社にご来社、ご来館される皆様へ
平素より弊社ならびに弊社商品をご愛顧いただき誠にありがとうございます。
弊社では、世界各地で感染が拡大している新型コロナウィルス感染症につきまして、お客様と従業員の安全を最優先とし、日々刻刻と変わる最新情報を正確に掴み、感染予防への対策を講じております。
そこで同対策の万全を期すため、今後弊社、または弊社施設(球磨焼酎ミュージアム「白岳伝承蔵」)へご来社、ご来館される皆様へ、現在運用しております社内ルールを基に、ご来社、ご来館にあたってのガイドラインをつくりました。
以下に該当する方がいらっしゃいましたら、ご来社、ご来館をお控えいただくようお願いいたします。
① ご自身が感染している、また感染者と濃厚接触の可能性がある方
② 風邪の症状や37.5℃以上の発熱がある方(解熱剤を飲んでいらっしゃる方を含みます)
③ 強いだるさ(倦怠感)や息苦しさ(呼吸困難)がある方
④ 1か月以内に新型コロナウイルス感染症の流行地への渡航歴がある方。
以上でございます。
何卒、ご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
2020年3月13日
高橋酒造株式会社
株式会社白岳酒造研究所
高橋ホールディングス株式会社
球磨焼酎ミュージアム「白岳伝承蔵」
ホワイトデーにお酒とくつろぎを贈る
3月14日のホワイトデーのお返しは、もうお決まりですか?
定番のスイーツを贈るのもいいですが、ちょっと思考を変えてお酒とお花のギフトを贈るのはいかがでしょう。
大切な人の家時間を、よりリラックスできるものにしたいという思いを込めて・・・
お酒は、女性に人気の新しいタイプの梅酒・うめぽんがおすすめです。
うめぽんはほんのり酸っぱい国産梅と、柑橘系の上品な甘さのデコポンストレート果汁をブレンドしたスッキリ爽やかな梅酒になります。
アルコールにそれほど強くない方にも好まれるやさしい味わいで、
ソーダ割りだともっと飲みやすく、お風呂上がりのご褒美にも最適ですよ。
お花は、ちょっとおしゃれにトレンドのドライフラワーか、
格好をつけずに近くのお花屋さんで
あの人の好きなお花をシンプルにブーケにして添えるのもいいですね。
大切な人へ、くつろぎの時間を贈る。
ひとりでも楽しい、ふたりならもっと嬉しいと思えるようなホワイトデーの贈り物がご提案できればと思います。
高橋酒造は、みなさまの良き日を飾るさまざまなこだわりのお酒をご用意しております。
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第184回 先輩がミャオ
先輩の様子が変だった。
電話で話した後で気になって先輩のマンションに寄ってみた。先輩はここで愛猫と一緒に暮らしている。家族はいない。しかし、飼っている猫が大好きなようだ。だから先輩は一人暮らしを続けていても苦にならないらしい。仕事は先進医療の研究とのことだが、その分野では先輩のような変人は少なくないのかもしれない。部屋の中に研究に必要なのかもしれぬ医療ロボットやらが何台もあるし、住まいが工場なのかもわからない。ワンフロアーを先輩が一人で借りている。内部はまるで町工場みたいだ、と言えばいいのか。心配が取り越し苦労であればいいが。
先輩!元気ですか!と部屋に入り、驚いた。
部屋中にソファーがあり、そして先輩の愛猫、三毛猫のミャオが鎮座していた。ミャオは、先輩がもう10年以上可愛がっていた。まさに家族以上のメス猫だった。ミャオと呼ぼうとして変化に気がついた。なんとミャオの頭が猫ではない。先輩だった。
「どうしたんですか先輩。変わり果てた姿になって」
「おお。どうして、ここに」
「電話で様子が変だったから来てみたんですよ。驚きました」
「ああ。俺が虚血性の心臓発作を起こしたとき医療ロボットがやってくれた。ミャオが数ヶ月前亡くなったときに遺体を保存しておいたから、医療ロボットが俺の組んだプログラム通りにな。早々に俺の頭にぴったりの肉体はない。しかしミャオは免疫反応はクリアしてた」
「だから、三毛猫の身体に頭を接着したのですか?これでは人前に出たら皆、大騒ぎしますよ」
「別に人前に出る必要はない。それに俺はミャオを何にも代えがたいほど可愛がっていた。だから、ミャオも生前は俺になついていたし、俺もミャオのことを愛していた。そんな俺がミャオと一緒になれたなんて素晴らしいことだとは思わんかね!」
まさにマッドサイエンティストだ。
「なにも人間の身体であったときと変わることはない。ペンを握るのは不自由だが、キーボードなら自由に押せるし、今は音声入力も可能だ」
そう言って、先輩は右前肢でキーボードを叩く。参考文書を検索していたようだ。そして〈注文する〉を押して得意そうに言った。
「な。こうしていれば外に出なくても必要なものはここに配達されるし、研究に不自由を感じることはない。」
「さぁ、この書の関連本は他にはないのか?」先輩がパソコンに叫ぶと画面にずらずらと関連本が並ぶ。音声入力の検索でも大丈夫だというのがよくわかる。
「必要なものはここに届くし、作業がいるものはロボットがやってくれる。俺とミャオは一心同体で何も困ることはない」
なるほど、とも思う。まさに先輩にとってはこれは理想なのかもしれない。
そう思ったときに外から先輩の名を呼ぶ声がした。「いるんでしょう。返事してくださいよ」それから、ドアの開く音。中年男がずかずかと部屋に入ってきた。しまった。ここへ来たときにうっかりロックするのを忘れたようだ。先輩が叫ぶ。
「何を勝手に入って来るんだよ。家賃なら来月分までネット振込を済ませているだろう!」
そうか。入ってきた男は、この部屋の家主か。しかし、店子のところに家賃も溜まっていないというのに、何をしに来たんだろう。
家主らしき男は血相を変えて叫び返した。
「うちのマンションでは、ペットを飼ってはいけないことになっている筈だ。ご存知でしょう。なのに、おたくはルールを破って猫を飼っているではありませんか!他の入居者の方にしめしがつかない。ペットを手放すか、ここを退去してください!」
すると、先輩はしらっとした顔で「えっ。うちはペットなんか飼ってませんがね」と、猫の手で頬を掻きながら言う。家主はその態度にも神経を逆なでされたようだ。
「それは通りません。ほら、猫があんたの首の下におるでしょう。そりゃあペットだ。猫じゃないか」
すると、先輩は高笑いして後肢で立ち上がり家主に言い放った。
「確かに首から下は猫に見えるかもしれないが、これは見た目だけだ。人格は俺自身だし、この身体の行動も俺が決定している。だから、猫やらペットやらは笑止!存在しない。何のルール違反もしてはおらんわ。勝手にプライベート空間に足を踏み込むお前こそ、警察に通報するぞ!」先輩にそう言われて家主は悔しそうに引き下がった。先輩はなんとずるい人なのだろう。屁理屈を屁理屈と思わせずに主張するとは。まんまと先輩は家主を追い返したのだ。これで猫に似た身体を持つ先輩の新しい人生が始まるのか!先輩の理性はすべてを解決するのか!そう感心したときだった。窓の外からキジの雄猫が長く誘うような声で鳴いた。キジはミャオの恋猫だったらしい。
高笑いをしていた先輩の表情が変わった。それまで立ち上がっていたミャオの身体は尻を窓の方に向けているのだ。そして、気がついた。3月。猫たちは発情の季節なのだ。頭は天才の先輩でも、その身体は‥メス猫なのだ。
「なんと、なんと、理性を持ってしても逆らえないこの衝動。どう判断すればいいのだ」
嫌悪の表情で抗いつつも先輩のミャオの身体はキジのいる窓際へ吸い寄せられていく。その結果を見るに忍びず、私は急いで部屋を出た。
会社説明・募集要項について
昨今の新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を受け、就活情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、
3月末まで全ての合同企業説明会を中止するとの発表がありました。
そこで企業説明会が再開されるまでの期間、高橋酒造株式会社の紹介動画を公開させていただきます。
下記URLをクリックし、ぜひ最後までご覧くださいませ。
◆高橋酒造株式会社紹介動画
https://mevie.it/h6u1pa8z4mhan4exizluj9al3cr4wvan35ocki57/?pw=uxxlomnrza
◆高橋酒造株式会社 会社説明・募集要項
https://mevie.it/2cgdg2ukhd3bei8r3ro0zzf1a86qbkhv79gut0ho/?pw=wtj34lxya1
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採用情報はこちら
https://www.hakutake.co.jp/recruit/
The SG Shochu KOME 発売のお知らせ
高橋酒造株式会社は、世界で数々の受賞歴を持つバーテンダーである後閑信吾氏が率いるSG Groupと、三和酒類株式会社、薩摩酒造株式会社と共同で、「バーで楽しめる焼酎」をコンセプトにした新しい焼酎ブランド【The SG Shochu】の開発に取り組んで参りました。
この度、各社より2020年2月14日に【KOME】【MUGI】【IMO】3つのラインナップで発売しましたのでお知らせいたします。

弊社では料飲店様向け商品として本格米焼酎【The SG Shochu KOME】を発売いたします。

カクテルでもシンプルな飲み方でも、多様なスタイルで美味しく楽しめる新しい焼酎像を提案いたします。
■商品概要
商品名:The SG Shochu KOME 750ml (40%)
アルコール度数:40%
原材料名:米(国産)、米こうじ(国産米)
価格:2,980円(税抜)
内容量:750ml
■公式ブランドサイト
https://thesgshochu.com/
■公式Instagram
https://www.instagram.com/thesgshochu/
バレンタインデーにほんの少しのこだわりを
2月14日は、バレンタインデー。
皆さま、贈りものは何かお決まりでしょうか?
毎年やってくるものだから、スペシャルな贈り物よりも
さりげなくいいものを贈りたいなと考えている人にはお酒もひとつの手かもしれません。
サプライズギフトではないけれど、自然と受け取れるものだからこそ、そこにふたりの仲を映し出すような気がするのです。
お酒好きのあの人へ。
甘いものを好まないあの人へ。
いつもより“少しだけ”気の利いたお酒をひとつ
セレクトしてみるというのも素敵だと思います。
良いバレンタインデーを。
今年も、高橋酒造ではさまざまなこだわりのお酒をご用意しております。
ご購入はこちらから
http://hakutake-shop.jp/
第183回 父を知る
父が元気な頃は、ほとんど言葉を交わさなかった。相性が悪かったといえばいいのか。何故あんなに嫌っていたのだろう。父も私に話しかけてくることはあまりなかったし。何が趣味というわけではなく、夕方私が学校から帰ると父も仕事先から帰宅し、座敷でひとり本を読んでいた。扶養してもらっている恩義はあったが、それ以上の感謝ではなかった。親の義務という甘えもあった。母が心配してもっとお父さんと話したら、というが、そんな気にならなかった。
だから、結果的に私は父の職業さえ知らないまま独立するように家を出た。それからはアルバイトで学費を稼ぎ自力で大学を出た。それで、実家とは縁が切れたように感じていた。そして母の訃報が届いた。母は自転車に乗っていてトラックにはねられ、あっけなくこの世を去ったのだ。葬儀でも父とは最低限の言葉しか交わさなかった。
再び私は自分の仕事に戻った。母があの世に去ってからまもなく、突然警察から父の死が伝えられた。何の驚きもなかった。いつか誰かからそんな知らせが来ることもあるのではないかと思っていたからだ。父は心臓の病だった。自宅にひとりでいたらしい。倒れているところを町内会長に発見された。すでに事切れていて警察の検死も受けたということだった。
火葬が終わり骨壷に入った父の前で、私は遺品の整理を始めた。どれ一つ見たことのない品々。太く長い木箱は押し入れの奥にあった。開けると黒いトゲトゲの鉄棒が入っていた。何に使うものだろう。私の背丈ほどの長さだ。どこかで見たことがある。しかし、思い出せない。というより、こんな重いものを何故持っていたのか?
近くに黒い文箱のようなものが置かれていた。この部屋は父の部屋だったので、何が置かれているかなぞ興味もなかったのだ。無意識に文箱を開けた。何だかモフモフした手触りのものが入っている。毛皮の衣類のようなもの?縞模様がある。下着?
ブリーフだった。これは……虎の毛皮た。そしてもう一つ木製の箱が。中に入っていたのは見たことはないが懐かしいイメージの木製のハンマー。いや、確か木槌というのでは?何かのおとぎ話に出てきたような。一寸法師だ。鬼が落としていったのは打出の小槌といったっけ。何故こんなものが、ここに。
まさか?
その木箱の下には、分厚い赤い表紙のノートが。そのノートを恐る恐る開いた。
見覚えのある父の文字だった。それは父の日記だった。何が書いてあるのか?
あるページが目に飛び込んできた。
「今日は節分だ。早くから仕事に没頭した。洗っておいた虎皮のパンツに着替えて、本部指定の場所をまわる。飲めば12時間肌が赤く変化する鬼ドリンクを服用して。金棒の重さが最近はこたえる。もう歳なのだろうか」
そう言えば、節分の豆まきをする日は父は家にいたことがない。母は当直だと言っていたが、あれは……。
この日記が本当だとすれば、父の職業は……“鬼“だったのか。
信じられない。“鬼“という仕事で生活が成り立つのか?母は知っていたのだろうか?
知っていたに違いない。父が不在の時にはいつも洗濯していたではないか。あれは鬼の居ぬ間の……。
日記の他のページを開く。
「今日は家内の紹介のママ友会で講習。タイトルは“賢い鬼嫁になるには“で。皆、役に立てただろうか?」父は鬼の講師もつとめていたのか!そして、自分は最後まで本当の父を知らなかった。他のページの日記。
「息子が私の正体を知ったら、どのような反応をするだろう?だから本当のことを伝えられない。考えると涙が……鬼の目にも涙というのは本当だなあ」
すると私の身体にも鬼の血が流れているのだろうか?まさか。来年の計画について後輩に聞かれたとき、何故か大声で笑ってしまったのは……自分でも不思議だった。
あれは…来年のことを言うと鬼が笑うという身体に先天的に備わった条件反射なのか。
しかし、しかし。父は普通の中年男にしか見えなかった。
鬼ならば頭に角が二本生えていたはず。そんなものは父の頭にはなかったが。
仏壇に置かれた骨壺に手を伸ばす。
確認するには、この方法しかない。
壺を開けると、白い骨が見えた。そして二本の三角錐のような磨かれた骨がある。
これはまさしく鬼の骨だ。やはり父は正真正銘の鬼だったのだ。
そのとき、私の頭に違和感が!体内で鬼が発動しようとしている。耳が尖っていく。額から角が生えてくる。やはり私も父の血を引く鬼だったのだ。しかし、この状況をどうすればいい?父は知っていたはずだ。
その隣の木箱を開くと透明な頭巾が入っていた。本能的にそれを被り鏡を見た。何ということか。角が消えていた。私は、ほっと胸を撫で下ろす。そして呟いた。「父さんのこと何も知らなかった。僕もお父さんの後を継ぐよ。やれるかどうかはわからないけれど。立派な鬼を目指して」
私は透明な頭巾の入った小箱を見た。
その表面にはこう書かれていた。
「角隠し」
第182回 福を迎えに
穏やかなお正月だ。家族全員揃ってお節料理をいただく。テレビでは振袖を着た女優たちが笑っている。こたつに入った娘は年賀状をチェックしている。無事に一年を過ごせたという思いだ。
「では、初詣に神社に幸運を願いに行こうか」と私が言う。すると妻が「そうね。平和な一年を送れたことのお礼にね。でも、去年私が初詣で神様に願ったことは、何一つ叶わなかった」
「何を願ったんだ?」
「たいしたことじゃないわ。宝くじで1等が当たりますようにとか、あなたが出世しますようにとか」すると、娘も言う。
「私も何も叶わなかった。素敵なボーイフレンドができますようにとか、成績がめきめきあがりますように、とか」
何と虫のいいことばかり考えるんだと、諭す。「初詣には何万人も人が訪れるんだぞ。神様にいろいろお願い事をして叶えてもらおうなんて無理だ。神様は、どこの誰に何を頼まれたのか憶えているはずがない。お詣りのとき、ちゃんと住所氏名を言ったのか?去年無事だったお礼を言うのが先だろう」
「そんなこと言ったって、後ろもつかえているし慌てるわよ」と妻は口を尖らせた。
「あっ!これがいいわ」と年賀状を見ていた娘が声を上げてハガキを振っている。「ねぇ、我が家にも福の神に来て頂かない?」
そのハガキにはこうあった。
福の神/2万円割引券 あなたの家にもぜひ福の神を/福の神ショップで招福万来
「へぇ?ホントかなあ。福の神を売る時代になったのかなあ」
「行ってみようよ。うちにも福の神さまに居てもらいましょうよ。あら、ショップは近くのショッピングセンターにあるよ。こちらのほうが神社で大勢とお詣りするより、霊験あらたかじゃないの?」
妻もそう言い出したので2万円割引券ハガキをもってショッピングセンターの福の神ショップに出かけたのだった。
ショップは三階にあった。福の神を扱う店は他に何軒もあり、店頭では店の人たちが元気よく客寄せしている。どの店もさまざまな縁起の良い神さまを販売しているようだ。
店の前で乙姫さまのようなきれいな女性がチラシ配りをしているので、ふらふらとそちらに行こうとしたら、妻に袖をつままれ止められた。娘が言うには「まあ、弁天さまがチラシ配りしてるなんて」思わず「厳しそうな業界なんだなあ」とつぶやいた。
一瞬どの店に入るか迷ったが、ハガキをくれたショップに入る。担当者に言われるまま席に座った。席の向こうで福よかなおじさんが担当者に紹介されているが、あれが福の神なのだろうか?ということは、家に福の神が来たら食費もかかるのだろうか?
「どのタイプの福の神を選ばれるか決めておられますか?」と担当者。どのタイプ?目を白黒させた。妻が尋ねた。「福の神ってお客さんのニーズに合わせて何人もいるんですか?」
「ええ。今は福の神の大量生産も可能になっていますから。どんな効用がお望みですか?」
私が「家内安全…」と言いかけると妻と娘は「宝くじ当てて大金持ちになりたくて」「成績が良くなって素敵なボーイフレンドがほしい」
「わかりました。では七福神セットコースか、あるいはパーソナルコースでお一人づつ神さまを選ぶか。神さまに、オプションを付けることもできますが」「あのう。福の神のお部屋とかお食事とか用意しなくてはなりませんか?奥の方は大黒さんでしょう?」「いえ、購入いただくと普段は姿は見えないので、食事も部屋もいりません。あれは店頭プロモーション用に実体化させているだけです」
見積もりを見て驚く。けっこう高い。「基本を福の神だけにして、宝くじ、異性運のオプションを付けることもよろしいかと。かなり安くできます。月々の料金はこれほどになります」と見せられると、なるほど安くなっている。「ただし、途中で他社に変更なさると、この金額をお支払いいただくことになります」
いつの間にか姿が見えなくなっていた娘が戻っていた。お手洗いにでも行っていたのだろうか。ショップの担当者が、「では内容を了承いただけたら、そろそろご契約をお願いしたいのです」疑い深いので、もう一度尋ねた
「ひょっとして、我が家に迎えた福の神が変質して貧乏神や死神になるなんてことはないんでしょうね!」
担当者は大きく首を横に振った。「いえ、弊社の福の神に限ってそのようなことはございません」
「そうですか!それでは」と契約のペンを取りかけたとき、娘が、お父さん、お父さんと袖を引いた。「ちょっと家で考え直そうよ」
それで、ショップを出て娘に訊ねた。
「急にどうしたんだ」
「いや、あの業界、競争厳しそうでしょ。あの店の隣の隣は閉店セールをやってたの。その隣の店は“驚異の大効果福の神”と貼り紙があったけど、潰れてシャッターが下りてたよ。そんな業界が扱う福の神って効果あるのかなぁと思って」
それもそうだ。「じゃあ、神社に詣って今年の運をお願いして帰るか」
「そうしよう。それがいいかも」私はこんな新年が来年も迎えられればそれでいいのだ。とりあえずの招福万来で。
熊本城マラソン2020記念ボトルを限定発売!

2020年2月16日(日)に開催される「熊本城マラソン2020」の開催を記念して
2019年12月17日(火)から「熊本城マラソン2020記念ボトル」を限定発売しております。
今年は、上品な香りと軽やかな口あたり、透明感のあるすっきりとした味わいが特長の「白岳しろ」の限定ボトル。
昨年同様、完走タイムが記入できるオリジナルデザインになっております。
目標達成の一杯に、ご家族やご友人の熊本城マラソン完走記念のプレゼントに。
この機会に是非、お買い求めください。
<商品概要>
■商品名
本格米焼酎 白岳しろ 熊本城マラソン2020記念ボトル
■パッケージ/価格
白岳しろ 25度 720ml/1本 1,200円(税込)
■販売
①12月17日(火)~
白岳伝承蔵 / オンラインショップ http://hakutake-shop.jp/html/page20.html
②2月14日(金)~15日(土)
熊本城マラソン EXPO会場
③2月16日(日)
熊本城マラソン フィニッシュ会場
