カジシンエッセイ

第74回 こんなお仕事

2011.01.01

「Aと話していて、いらつくことないか?この間、おれ、頭に来ちゃったよ」

「え、どうしたの。珍しいじゃないか」

「とにかく、Aと来たら無神経なんだよ。自分がやったことやら言ったことが、皆にどんな迷惑をかけているのか、わかっていない。気がついていないんだ。呆れると思わないか?」

「ま、まぁ。興奮しないで飲んで、飲んで」

「ねぇ、そう思わないか?あいつと話していて呆れたことないのか?皆呆れると思うぞ。結果的にAは、自分で自分の首を締めているんだ。あとで、皆、相手にしなくなるぞ」

「おまえとAは学生の頃からのつきあいなんだろう?
 だったら、お前の口で直接ガツンと言ってやりゃあいいじゃないか」

「そ、そ、そりゃあ駄目だあ。たしかに学生の頃からのつきあいだけれど、Aは今じゃうちの商売のお得意さんなんだよ。ガツンって言った日には、うちの仕事を切られちまうよ。言えるわけないよ」

「じゃあ仕方ないじゃねえか」

「しかし、あいつ、わかってねえんだから、誰かが言ってわからせてやらないといけない。
 誰かが俺の代わりにいってくれたらなあ」

「あ。それ職業として成立しないかなあ」

「どうするんだよ」

「注文が来たら、その人のとこ行って言うんだよ。鉢巻をしていて、それに<文句代行>って書いてある。
 走って行って『ちわー。Aさんですね。まいどぉ!文句代行業です。お伝えに参りましたぁ。
 あなたぁ、無神経だそうです。皆が迷惑している。そう伝えろってことだそうです。
 少しは反省しろー。
 以上です。どうも失礼いたしました。じゃあ文句お届けしたという印鑑、お願いしまーす』
 そんな感じかなあ」

「依頼人は誰だって、問い詰められたら?」

「そりゃあ、プロだから、依頼人の名は死んでも明かしちゃならないよなあ」

「ああ、わりといいかもしれないなあ。面と向かって文句が言えない人も多いだろうし、権力を傘に着ていたりすればなおさらだしなあ
 ニーズはあるかもしれないなあ」

「でも、いくら依頼人の名を明かさないと言っても、考えて見れば誰が依頼したか、すぐに思い当たるんじゃないか?よほど鈍いやつでなければ」

「だから、『世間では、あなたのことを皆、そうだって言ってますよ』と言添えるオプションサービスをつける」

「なるほど。じゃあ町内に暴力団が事務所を開いたときも、行ってくれるんだ。
 『おたくの組は、この町内で評判悪いですよ。教育上良くないから、町内から出て行け』って。
 行ってくれるかなあ」

「そりゃあケース毎に割増料金をもらわないといけないかもねえ。加えて入院費の実費とか。おれは、行かないけど」

「ご主人から、奥さんに、わしに代わって言ってくれ、という依頼とか、けっこう需要が多いような気がするけど、どうかなあ」

ああ、たしかに。しかし、これこそ、依頼したのが誰か一発でわかるんじゃないか?その後の報復が恐怖だろうから、誰も依頼してこない気もするなあ」

「最後に、『これを依頼したのは絶対にご主人ではありません』と言い添えては駄目かねえ」

 居酒屋のカウンターで飲んでいたら、こんな馬鹿話になりました。皆さんにも、思いっきり文句を言ってやりたいけれど言えない!てことありませんか?
 こんな仕事もアリだと思うのですが……。

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