カジシンエッセイ

第123回 クロノス・ジョウンター再び

2015.02.02

 実は「クロノス・ジョウンター」という時間を超える装置、というより欠陥タイムマシーンについては、7年前のやはり2月に、こちらのカジシン・エッセイで書いております。そのときは「クロノス・ジョウンターの伝説」の新書版が発売されるのを記念してのエッセイでした。本来は中編1本で完結していた「クロノス・ジョウンターの伝説」が、なぜ本が出るたびに増殖し新作が加わっていったかという経緯を記したかと思います。そのときのターミネーターのような編集さんはもう定年を迎えておられますし、新書版も、品切れが続いておりました。
 しかし、演劇集団キャラメルボックスがほとんどの作品を舞台化していただいたおかげで、全国の高校、大学の演劇部、そして地方の劇団と様々な方たちによって上演が続いていることを知りました。その方たちからも問い合わせを頂いていました。
「クロノス・ジョウンターの伝説の原作本を手に入れたいのですが」
 申し訳ありません。私としては、ありがたくて頭が下がります。作者冥利につきると申し上げればいいのか。
 同時に、「クロノス・ジョウンターのような欠陥のあるタイムマシーンをどうして考えられたのですか?」とよく尋ねられます。
 はたと弱ってしまいます。いやぁ、欠陥がある方がタイムマシーンは面白いではありませんかと答えて、ふと思いあたります。
 私は昔から時間をテーマにしたSFが大好きだったのです。最初に接した時間テーマは、やはり代表的な誰でもご存知のH・Gウェルズの「タイムマシン」を映画化したもの。(原作を読んだのは中学生の時ですね。)そのとき、主人公はタイムマシンで80万年後の世界へ冒険に行くのですが、時間を超えることで生ずる矛盾については考えられていません。その後、時間旅行の話が大好きになって、いくつも読んだのですが、特に短編では、目からウロコが落ちるような話をいくつも読むことになりました。有名な「自分が生まれる前の時代に行って自分の父親を殺したらどうなる?」の解答もいくつも読みましたね。自分の父親を殺そうとするが、なぜか邪魔が入ってどうしても殺せないというもの。自分の父親を殺した瞬間に、自分が消滅してしまったり宇宙が消滅してしまうもの。自分の父親を殺して過去から帰ってきても何も変わっていない。自分にも変化が起きない。なぜなら、自分の本当の父親は母親の浮気相手だったから。父親殺しは、まだいろんなパターンがありました。
 短編のタイムマシンものは、過去へ飛んで矛盾を起こすものが多いようです。太陽系そのものが宇宙空間を猛スピードで動いているから、タイムマシンで過去に飛んだら宇宙空間に投げ出される...という話やら。無限増殖する自分や金といったアイデアもよく見ました。机の上にある金貨を持ってタイムマシンで1分前の過去に行くと、自分が持っているものと机の上にあるもので金貨は2倍になる。その2枚を持って、また1分前に飛べば3枚になる。こうやって金貨は無限に増えていく......というものです。それで大金持ちになれるかも、というところで意外な落とし穴が発見されて、主人公は虻蜂取らずになってしまうというパターンが多かったなあ。過去へ飛んだらタイムマシンの欠陥が見つかり、過去の自分と一緒にもっと過去の自分に文句を言いに行くという話は、まるで落語のようでした。そして、過去に行って過去のものに触れただけでバタフライ効果が起こるという話も、いろんなバリエーションがあります。過去の世界で小さな蝶を踏みつけただけで、その蝶が受粉するはずの花が実を結べない。そんな変化が連鎖して異常気象や生態系の崩壊まで招いてしまい、人類や地球の未来まで左右することになるというのが、アイデアの骨子です。このバタフライ効果について、なにか連想されませんでしたか?
 私は、すぐに"風が吹けば桶屋が儲かる"を連想しました。よく似ていると思いませんか?
 タイムマシンものは、奇想の泉でもあるなぁと。時間テーマについて考えていると、もっと変な時間の性質を創造してもいいのではないか、と思いついたのでしょう。クロノス・ジョウンターのお話を組み立てた時は。
 そんなことを懐かしく考えていたら、演劇集団キャラメルボックスさんが今年30周年を迎えられるとの報せが。そして、その記念公演で2月から大阪と東京で「クロノス」を上演されるとのことです。これは「吹原和彦の奇跡」を原作としたものですが、同時に成井豊さんも「クロノス・ジョウンターの伝説」の新作に挑戦されるとのこと。タイトルも「パスファインダー」と。楽しみです。
 また、2月にはこれまで手に入らなかった原作本も「クロノス・ジョウンターの伝説」が完全版として徳間文庫から発売されることになりました。
「手に入らないんです」とご迷惑をかけっぱなしでしたが、お待たせいたしました。
 併せて楽しんでいただきますよう伏してお願い申し上げます。

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