カジシンエッセイ

第64回「改造人間、再び!」

2010.03.01

先月の「あれから一年」は、たくさんの方の反響があり、驚きました。
ブログで読んで、初めて知ったと、電話を頂いたり。
しかも、間寛平さんの前立腺ガンのカミングアウトの後でしたからねぇ。
ご心配いただいた方、ありがとうございました。
さて、70本の低放射線の金属針を股間に埋め込んだ改造人間は、おかげさまで元気です。
一番辛かったのは、術後2ヶ月目くらいでしたかねぇ。
腰痛と、全身の倦るさが、とれなかったなぁ。
しかし、それを過ぎると、体調の方は、薄皮が剥がれるように良くなってきています。
今月で、約半年ということになるのですかねぇ。
おかげで、一月末には、上京してきました。
演劇集団キャラメル・ボックスで、私のクロノス・ジョウンターの伝説を公演されていますが、その舞台の製作発表に呼ばれたのです。
上京するのも、一年ぶりです。
脳天気な私なので、何も心配することなくはしゃいでいたのですが、上京が近づき、ある種の不安のようなものが芽生えました。
ハイジャック犯が、飛行機爆破未遂に終わったというニュースが報道されたあたりからです。

―――ふうーん。9・11以降、飛行機のセキュリティが厳しくなったと聞いたりするけれど、こんなハイジャック未遂があったりすれば、警備も厳しくなっていることだろうな。
空の安全のためだ。結構なことだ。
そう自分に言い聞かせて、あることに、はっと気がつきました。
私は、今、体内に70本の金属針を埋め込まれた改造人間なのだと。しかも、その金属針は下半身……それも股間に集中しているのです。すると想像が勝手に膨れあがるのです。
空港には、金属探知機のゲートがあったよなぁ。
70本の金属針は、金属探知機に反応するのではないか、という不安。
ゲートをくぐると不審気に警報音が鳴る。
ピーッ。
すると、私は担当官に呼び止められる。
「あのう。ポケットに金属をお持ちですか」
「いえ。別に。携帯電話はカゴに入れて探知機を通しました」
「では、ベルトをはずして、もう一度ゲートを通ってください」
「は、はい」
 おろおろしつつも、ゲートを通ると、再び。
 ピーッ。
「これは、おかしい。失礼します」
 そう言われて身体中をまさぐられるものの何も発見できない。
 発見できるはずもない。体内にあるのだから。
 遂に先端が円盤状になったハンディタイプの金属探知機が使用されることになる。
 探知機が近づくと、股間の辺りで……
 ピーッ。
 セキュリティの人は顔を見合わせる。
「この人は、股ぐらに何やら隠し持っている」
 そう言われて私は慌てるしかない。
「いえ……実は……私の話を聞いてください。」
「あの・その・いえ」
「私、前立腺ガンの処置を受けまして、その手術で体内に低放射能を放つ金属針が70本あるんです」
 すると担当官は、私を睨みつける。
「そんなバカな手術はないでしょう。そんなことで我々を欺しおおせると思っているのですか?」
「め・め・滅相もありません」
「ここでは埒が開かないようですね。では、ちょっと取調室にご同行ください」
「勘弁してくださいよ。ああっ。私の乗る飛行機が出てしまう~」
 そんなことは知ったことかというように、担当官たちは私を取り囲む。
「さあて、こちらの部屋で全裸になって頂きましょうか」
「そ・そんなぁ」
「仕方ありません。私たちも職務ですから。空の安全を守る責任があります」
 そして、全身ボロボロになるほど取り調べを受ける。
「何も見あたらないぞ」
「体内に爆弾を仕込んでいる可能性もありますよ。人間爆弾とかいうやつ」
「そうか。最近は肛門の中に……という例もあったようだし。今年は寅年だから、コーモンのトラとか」
「うひひひひひ」
 私は「勘弁してください」と泣き続ける。……そんな不安を抱いたのですが、結果は……無事に通過できました。
 針はチタン製で、探知機は反応しないらしいと後で知りました。

 他にも、これから改造人間ならではの憂鬱なできごとが待っている気がしてなりません。

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