カジシンエッセイ

第76回 リターン・オブ・「私は見た!」

2011.03.01

 私の周囲に、陰謀論やら世の中の隠された真実やらUFOの目撃やらにやたら縁の深い奴がいる。
 彼についてのエピソードは、このブログの過去記事をご覧いただくといい。そこで、彼のUFO遭遇例やら宇宙人との第三種接近遭遇時の状況やらを記しておいた。と、同時にどのような気持ちで私が書いているのかというスタンスもおわかりいただける筈である。
 私が何度も眉に唾をつけて紹介しているだろうということは、即座におわかり頂けるだろう。
 ところが、そんな懐疑主義の私にも、信じられない出来事が起こったのである。
 前半は、その出来事について。
 

昨年の暮、鹿児島へキノコ採りへ出かけたときのこと。これは年最後のキノコ採りで忘年会も兼ねるので、お酒が入ることを考慮してJRで出かけるのだ。
 さて、熊本駅で特急つばめに乗り込むときのことだ。列車が構内に入ってきて停車する。そして、乗客たちが下車してくる。それを、これから乗車しようとしている私たちはホームで待つわけである。
 何番目に降りてきた客だったのかは、わからない。乗車口を見下ろしていた私の視線の前に、突然、若い女性の足が伸びた。すらりとした長い足で黒い網目のストッキングを履いていた。あまりにもカッコイイ見事な足なので、どんな女性か知りたくて思わず見上げたのだった。
 ところが……。
 見上げても見上げてもステキなお御足が続くばかり。上までたどり着かない。ああ、時間がない。それでも目の前には足が……。
 時間切れで、上にたどり着いたとき。その女性はすでに後ろ姿だった。顔はわからない。ただ、彼女はウェーブのかかった長い髪で、黒っぽい厚手のコートを着ていたことは覚えている。
 同行していた方に訪ねた。
 その女性ことを確認しておきたかった。私の目の錯覚ではなかったということを。
「ああ、僕もしっかり覚えていますよ。髪が長いきれいな女性でしょ。背が高くて、目鼻立ちがはっきりしていて。えっ、足ですか……。気づかなかったなあ。そこまで見ていません」
「いや、足が凄かったんですよ!顔は見ていない」と私は告げた。「視線がたどり着かなかったんですよ。見上げても、見上げても、お御足だけで」
 で、不思議なのは同行の方は上半身だけの目撃。私は足だけの目撃。こんなことってあるの?
 妖怪お御足に遭遇したということなのか。
 そんな出来事を「私は見た!」の彼に言った。すると……。彼は即座に指摘した。
「その女性はエイリアンです。まちがいありません。やつらは、人間そっくりに化けて、我々の間に潜り込んできているんです」
 例によって、そんな解釈である。某缶コーヒーのトミー・リー・ジョーンズ演ずるCMのようなことを。

 さて、その彼と飲む。例によって胡散臭い話が多い。焼酎がすすむごとに。
 例の波照間島の空港のトイレで作業着姿のエイリアンと遭遇した話題になった。そのときは彼は正月休みを利用して、波照間島まで足を延ばした。そして島巡りのドライブの途中で尿意を催し、波照間空港に飛び込んだ。そのとき、すれ違ったという。
「本当ですよ。アーモンドアイで小柄なエイリアンです。とにかくおしっこをこらえていたから、そのままトイレに駆け込んで、出てきたらもうどこにもいなかったんです」
 いつもならそこで私は、「お寿司屋のCM撮ってたの?」と彼をおちょくり、話題は途切れるのだが、その日はそうではなかった。
 実は、その席に同席していた方々がいる。某巨大通信産業の社員で、そのとき勤務地は南方で、しかもかつ、彼が波照間島を訪れていたとき、ご夫婦で彼を案内していたのだと。
 だから、彼はそのご夫婦に同意を求めたのだ。
「ねぇ。いましたよね。エイリアンが!」
 私としては興味津々。てっきり、その気まずそうな表情を浮かべるか、笑いを噛み殺すと思ったら。
 ご主人が口火を切る。
「ああ。空港のトイレから出てきたエイリアンですね。黄色い作業服の」
「あれは宇宙人だとすぐにわかりますよ」と奥さんも。
「ほら、本当だろ」と彼も得意そうに。
 え・え・え・えええええええええええええええええぇ。

「あのときは空港に寄った時間は、離発着がなかったんです。しかもお正月で、空港には誰もいなかったから。宇宙人以外には考えられませんよ」
 三人は、頷きあい、また詳しく記憶を反芻するように遠くを見る視線に戻ったのだ。
 何がホントなのか?

カテゴリー:SF

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