カジシンエッセイ

第60回「腐乱件死体」

2009.11.01

今や、キノコ採りシーズン真っ只中である。
こちらのブログでも何度か書いているからご存じと思いますが、私……キノコが好きで好きで、秋になると……んもー、辛抱たまらん状態に突入するんですわ。
秋はできるだけ、仕事を入れないように。丸一日まとまった時間ができたら、やれ嬉しや。キノコの山に入ります。それで、山の中を駆けずりまわって採り歩きます。
昨年なんか、長野まで松茸採りに遠征してきましたよ。
例年、私は、必ず足を運ぶ自分なりのキノコ畑を持っていて、そこを訪れることにしています。
そこが、どこだかは、内緒の話にさせて下せえ。
そのうちの一カ所に菊池渓谷があります。
熊本県の北部にあるんですが、紅葉と清流が有名です。加えて、さまざまな種類のキノコと出会うことのできるキノコスポットでもあるわけです。しかも、比較的高度が低い場所なので、山では十一月下旬には姿を消すキノコも、この菊池渓谷では十二月に入っても採りに行くことができます。ムキタケ、クリタケ、ヒラタケ、エノキタケですね。
で、昨年は、一度も菊池渓谷を訪れなかった。あれほど毎年、足繁く通っていたというのに。
何故か。

ひとつは洒落にならない切羽詰まった状態がある時期まで続いたこと。そのときは、先に楽しみが待っているんだと自分に言いきかせ、欺し、欺ししつつ仕事を粛々とこなしていきました。やがて締切のトンネルの向こうに薄明かりが見え、脱出成功!
よし、とりあえず近場の菊池渓谷にキノコ採りに行くか!そういえば登山靴の紐がきれていたなぁ。買わなきゃ。
靴紐を登山用品の店に買いに行ったときの話。
ショップのお兄さんが、こう言われました。
「今年は菊池渓谷に行かれましたか?」
「行ってないんですよ。なんやかやで」
「そうですか。じゃあ、裏山は入山禁止になっているのはご存じですか?」
「ええっ?知りませんでした。どうしてぇ?イノシシか何か出没するんですか?」
ショップのお兄さんは、ブルブルと首を振ります。
「あの、しばらく前の新聞記事を憶えてませんか?」
「何の記事?」と問い返しました。
どうも読み落としていたらしい。心当たりがない。
「菊池渓谷で、男の左腕と右足が発見されたでしょう?」
そう兄ちゃんは眉をひそめて言いました。
「自殺らしいという話は聞いたんですが、腐乱死体で。」
体の部位が発見された、それぞれの場所を聞いていると、それは私がいつもキノコ採りに行く菊池渓谷の支流らしい。
「まだ、他の部分が見つかってないから、入れないらしいんですよ」

けっこう私は立ち入り禁止でも入って行っちゃう方だから、事情を知らずに入っていって、どっきり突然遭遇してしまったら、パニックを起こしてしまったかもしれないなと思うのです。

ということで昨年のシーズンは一度も菊池渓谷に足を踏み入れなかった。今年は立ち入り禁止はなくなっているのかなぁ。誰も足を踏み入れなかった昨年は、菊池渓谷の裏山はキノコ花盛り状態ではなかったろうか?

そのことを思い出すと、浮かぶイメージがあります。
「あっ!でかい松茸だぁ!」とキノコに手を添えると、そのキノコが生えているのは髑髏のぽっかり空いた眼巣からだったとわかり、腰を抜かしてしまうというもの。
「ひえええええ」

行ってみるべきか。行かざるべきか。それが問題だ。
まだ、結論は出していないんですよ。考えれば考えるほど迷ってしまう。
キノコは採りたい。
でも怖い。
でも採りたい。
でも気持ち悪い。でも採りたい。
むう---------------っ!

カテゴリー:トピックス

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