カジシンエッセイ

第35回「説明できない出来事」

2007.10.01

SFみたいな話を書いているから、UFOとか信じてますよね?と
言われたりするのだが、実はあまり信じていない。
訊ねられて、そう答えると意外そうな顔をされる。
UFOを見たこともないし、もちろん幽霊にも出会ったことがない。相手の方はつまらなさそうである。
仕方がないので「あ、カラスが横断歩道を歩いて渡るのを目撃しました」と言っても、あまりインパクトはなさそうである。
じゃ、何にも不思議な体験はないのですかと訊ねられて、よくよく考えてみたら、古い古い体験で一つだけある。
つまらないことかもしれないが、どうしてそのようなことが起こったのか、私の中で未だにうまく説明ができないのだ。

もう五十年ほど昔の話なのだが。
そのとき、私は小学校の四年生くらいだったかと思う。
場所は、わが家の台所。
わが家は、とにかく古い家屋である。その頃の台所は、改造前で土間があった。
土間に流しがあり、母は、そこで私を叱りながら、ラッキョウ漬けを作っていた。
土間の横に板部分があった。その板は、はずされていた。下は貯蔵庫になっていた。漬物用のかめやら、一升瓶やらが入っている。漬けたラッキョウを、そこに保管するために開けられていたいたのだ。
その横で、私は正座させられ、母の小言を延々と聞かされていた。
何で叱られていたのかは、記憶が定かではない。テストの成績が悪かったのか、あるいは、何かいたずらをしでかしたということなのか。いや、そういうことは、どーでもいい。要は、子供を長時間ぶつぶつ叱っても、何も効果はない。それだけは確実だ。
話それました。
いいかげん解放してくれよと、私は心ここにあらずの状態で、ひたすら耐えていた。
視線は、その貯蔵物をぼんやり眺めつつ。
そのとき、それが起こったのだ。
貯蔵庫には、一列に一升瓶が五、六本ならべられていたのだが、そのうちの数本は、空っぽの瓶であった。
そのうちの一本の空瓶が、突然にポンと音を立てた。かすかな音だ。
見ると、瓶の栓が二〇センチほども上の宙に弾き出されてくるくると舞っているのだ。
何故?
もう、目は釘付けである。
不思議は、それだけでは終わらなかった。
栓はくるくると回り続けた。それは二、三秒のことだったかもしれないが、私には長い長い空中滞在時間に思えた。
そして‥‥。
その栓は落下した。
何処へかというと、元の位置へ。再び、飛び出した一升瓶に、ぴたり!と納まったのだ。
「あっ」と思わず声をあげた。
その不思議さを我慢することができず、母に言った。興奮して。
「ねぇ、今、一升瓶の栓が飛んで、くるくる回って、また自分で栓しちゃったよ。何故、こんなことあるんだろう」
だが、母は、私の言うことを「何、馬鹿言ってるの」と信じなかったばかりか、自分の話を真剣に聞いていないと、火に油を注いだように怒り狂ってしまったのだった。
それから再び延々と小言が続くのだが、二度と、その怪奇現象は起こってくれなかった。
そのできごとは、五〇年経過しても忘れられない。
いろんな理由を考えてみる。
貯蔵庫のふたを取っていたから、気温が上昇し、瓶の中の空気が暖められて、栓をはじき飛ばした‥‥。一番、科学的な理由だ。しかし、その現象は一本の空瓶だけなのだ。そこまでは、可能性としてあり得るかもしれない。だが、栓が元の瓶に落下してピタとおさまる確率は、どのくらいだろう。
まず、あり得ない。
では、何故、こんな現象が起こったのか?
私が動かしたのだろうか?とも思う。子供は念力(テレキネシス)を使うことがあるともいうし。あるいは、ポルターガイストの一種?
といったことなのですが、これが唯一私にあった不思議な体験です。
あまり、地味なので面白くもないと思いますが、真実はどこにあるのでしょうか。

カテゴリー:SF

ページのトップへ

バックナンバー