カジシンエッセイ

第108回 新しいエマノン出ます

2013.11.01

今月、エマノンの新作本を出します。
『おもいでエマノン』でスタートして『さすらいエマノン』『かりそめエマノン』『まろうどエマノン』『ゆきずりエマノン』に続く6冊目になるのですが、今回はイメージが変わったかもしれません。
 6冊目のエマノン本のタイトルは『うたかたエマノン』です。
 どこがこれまでのエマノンと違うかというと、今回の『うたかたエマノン』は初の長編なのです。雑誌「読楽」で1年に渡って連載させていただきました。
 これまでのエマノンの活躍の場は主に短編でした。50枚から80枚くらいの長さ。『かりそめエマノン』と『まろうどエマノン』は200枚の中編となっておりますが。ですから500枚近いエマノンなんて初めての経験でありました。
 それから、もう一つ。
 エマノンシリーズでは主人公のエマノンにいくつかのお約束があります。
 いつもジーンズを履いていてセーター姿。自分の記憶の重さから逃れるために、両切りの紙巻きタバコを吸う習慣がある。長い髪で、化粧っ気がないの美少女。そばかすも魅力的です。彼女は地球に生命が発生してから現代に至るまでの、生命体の全ての代の記憶を引き継いでいます。でも、今のエマノンになったのはいつの時代からなのだろう。もちろん人間に進化した後だろうけれども?
『うたかたエマノン』は、これまでのエマノンシリーズの中では舞台が一番古く、19世紀末です。そのとき登場するエマノンは、まだ自分のことはエマノンとは名乗っていませんし、タバコも吸っていません。ジーンズも履いていなかった頃のことです。
 実は、この物語を思いついたのはずいぶん前です。いつ頃かというと……20世紀。だから、デュアル文庫で『おもいでエマノン』が2000年に復刊されたとき、巻末の鶴田謙二さんとの対談で、この『うたかたエマノン』の構想をちらりと口を滑らせているんです。


「ラフカディオ・ハーンとポール・ゴーギャンが、エマノンと一緒にゾンビ狩りをする話を書こうと思っているんですが。後は舞台となるマルチニーク島へ取材に行くだけです」
 私は、そう言い切っています。 
 そのまま宿題を済ませていない子供状態で十数年が経過しました。書いていない理由は、
「まだ、マルチニーク島に取材に行けていない」
 その間にも、鶴田謙二さんはコミック版を描かれていて、私は短編のエマノンを思い出したように書いておりました。
 長編エマノンに手を付けないまま。
 気がつけば、マルチニーク島に行かないまま還暦も過ぎてしまいました。こりゃあ、さすがにまずいな。読者の方に約束したのに嘘をついたような状態だ。
 で、ある瞬間に、物の怪が落ちたように踏ん切りが付きました。
 今、マルチニークを訪ねて取材しても、19世紀のマルチニークとは全く違うんだ。タイムマシーンで行かない限り真実はわからない。だったら、宇宙を舞台する話も、戦国時代のお話も、19世紀末のマルチニーク島の話も同じではないか?全て想像力で解決するしかないのではないか?
 そう自分に言い聞かせたら、長編エマノンが書ける気がしてきたのです。代わりに、マルチニーク島の歴史やら風土がわかる資料、観光本(これがほとんど、ない)を探し、ハーンの西インド滞在時の著書やらゴーギャンの手紙集やらを読み漁りました。
 読めば読むほど、もやもやとしていた19世紀のマルチニーク島が形になってきました。いや、本当のマルチニーク島がどうだかわかりませんが、私の夢想マルチニーク島です。変な生き物が蠢き、割と軽いノリのキャラになってしまったハーンやゴーギャンでも構わないのだ、と。
 開き直ったわけですね。
 おかげで、吹っ切れた途端、最後までぶっ飛ばし書き進めることができました。
 もちろん、ホラ八百のお話であります。それでも虚構なりに、かつての首都サン・ピエールが活火山モン・ペレーの大噴火で壊滅する前の地形や都市の状況は再現したつもりでいます。
 その中で、どうしても確認しておきたいことが発生。この時代のマルチニーク島の特産品ラム酒についてです。世界各地のさとうきび特産の場所ではラム酒が作られているそうで、中でも、マルチニーク島のラム酒は逸品らしい。ハーンも大好きだったのだと。これだけは確認しなくては、と捜しましたが、熊本には売っていない。味が正確に描写できないではないか!
 すると、その話をしたバー「てれすこ」の古田マスターが手に入れてくれました。これには感動しました。もちろん、マルチニーク島の白ラム酒。その味の素晴らしさは、ぜひ本編をお読みくださいませ。
 よろしくお願いします。(平伏)

※「うたかたエマノン」は徳間書店より11月中旬より発売予定です。また、12月に「おもいでエマノン」、平成14年1月に「さすらいエマノン」、2月に「まろうどエマノン」(「かりそめエマノン」と合本)、3月に「ゆきずりエマノン」が徳間文庫で復刊の予定です。こちらも、よろしくお願いします。

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