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Column - 2024.01.01

第231回 おさご幻奇譚

皆さま、明けましておめでとうございます。今回は、ショートショートではございません。実は今月から熊本日日新聞で新しい連載小説を始めます。その紹介をさせて頂こうというわがママなコラムに致しました。
タイトルは「おさご幻奇譚 むかし山都町で」です。ひょっとしたら時代小説じゃないのか?と思われた方、まさにご賢察!そのとおりです。
私、これまでいろいろと書いてまいりましたが、時代小説を長編で書くのは初めての挑戦になります。「つばき時跳び」という作品は主人公のつばきという女性が江戸時代の人物という設定ですが、タイムトラベルして現代にやってくるという物語で、前半が現代、後半に江戸時代という半分時代劇半分SFという構造にしており、話を通してみるとタイムトラベルSFというべき話かなと思っているのです。
さて、つばきという女性はフィクションですが「おさご幻奇譚」の主人公おさごは実存した女性なのです。
「おさご幻奇譚」は、このカジシンエッセイの第81回で取り上げた『仏原騒動』の物語です。
延宝2年、西暦1687年のこと。
山都町の清和文楽館の近くの仏原で起こった事件。かつてここに結城半太夫、十太夫という地侍の兄弟がいた。その年の正月に夢枕で半太夫にお告げがあった。それによると、高千穂神社に天下を取ることのできる巻物がある。その巻物を持ち帰るべし、と。早速、高千穂の神社より巻物を持ち帰り、巻物を壁にかけ、仲間を集めて騒ぎ始めたところ、その知らせを聞い矢部の惣庄屋が、これは一揆の企みかと武装して結城家を取り囲み、半太夫、十太夫は斬り合いの後に死亡。そしてこの騒ぎに加わったものたちは取り調べのうえ、ことごとく打首になったと伝わっています。
私がはじめに知った情報はそのくらい。それ以上のことがわからず、自分なりに『仏原騒動』について調べ始めたのですが、なかなか詳しい資料にたどり着けませんでした。調べていくうちに事件は、結城半太夫、十太夫だけではなく実は五人兄妹によるものらしいことがわかってきました。その頃になっておさごという妹の存在も知りました。
『仏原騒動』のいろいろな資料をつき合わせていくと、それぞれ書かれている内容が異なることもわかってきました。兄妹たちが“八福輪“という宗教を信じる狂人たちだと書かれているものもあり、愛藤寺城大将の結城弥兵次の一族であり末裔であるという記述もありました。結城弥兵次は小西行長の流れだから、隠れキリシタンであったという説になります。
騒動の元となった高千穂三田井宮(高千穂神社)から持ってきた巻物は源頼朝ゆかりのものであるという説や、義経が使った『六稲三略(ろくとうさんりゃく)』というものでこの巻物のとおりにすればどういうやり方をしても勝つという兵法巻物である、という説。
こりゃ真実は言ったもの勝ちということじゃないか、というのが正直なところです。
自分なりに現地に足を運んでみました。山都町の仏原騒動跡。国道218号の清和文楽館から少し馬見原寄りで国道から中に入ったところ、石段の上にぽつんと枯れたススキに囲まれて石碑がありました。
これだけでは、いったいどのような事件だったのか現在では想像することもできません。人が訪れた形跡もほとんど感じることができませんでした。それから、問題の兵法の巻物を手に入れたという高千穂神社にも足を運んでみました。仏原から高千穂まで、自動車を使い日向往還ルートを走っても25キロあります。往復で50キロ。現在のように道路が整備されていない山道を半太夫はお告げを信じて往復できたのでしょうか?兵法書がどこに置かれていたかも知っていたのか?
さまざまな疑問が湧き起こりました。
もちろん、神社にも問い合わせました。宝暦二年に巻物が盗難にあった記録があるのかどうか?
高千穂神社には、そのような記録はないという返事でした。そして、仏原騒動のことは初耳ということで。まあ、代が替わるに従い失われる記録もあるのでしょうね。
ただ、調べていてわかることは、この仏原騒動について山都町の方たちもほとんどご存知ないということ。ご存じの方でも、あまりよい印象を持っておられないということ。
とすれば、この話を読んでみたいと思って頂くには、どのような語りをやっていけばいいのか?それが、まず最大の問題ですね。
宝暦という時代の山都町の地侍たちの暮らしはどうだったのか?できる限りリアルに調べていきたい。そんな悩み。
県立図書館の丸山学芸委員にご相談申し上げると、なんと、懇切な新資料をたくさんご紹介頂きました。ありがたいことです。
とりあえず連載をスタートさせますが、調べていて興味が湧いたのはやはり妹のおさごです。後に処刑されていますが、彼女には「幻術を使った」という言い伝えがあります。「おさごは断崖絶壁の中途で機を織って見せた」「水の上を歩いてみせた」とも。
仏原騒動を語る上で主軸になる人物は、おさご以外にはない。と今は考えています。そして負のイメージを持つこの事件が、山都町の方々に誇りを持って語り継いでいく出来事になれば、と願っていますし、それが私のこの小説を書く使命になると信じています。
よろしく、連載おつきあい下さい。



 

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