カジシンエッセイ

第89回 舞台は熊本

2012.04.01

初めてお会いして、私の本を「読んでいます」とおっしゃるありがたい方から、質問を受けたりすることがあります。その質問には、不思議と共通点があることに気がついていました。
 皆さん、私の本を読んで考えられることって一緒なんですねぇ。
「なぜ、小説の舞台は、熊本が多いんですか?熊本が描きやすいからですか?でも、カジオさんが主に描こうとなさるのは、現実世界ではあり得ないSFですよね。であれば、架空の都市や、宇宙でも構わないんではありませんか?」

 よく、そんな趣旨の質問を受けます。
 確かにSFでは、舞台は現在ではなく未来に設定されることが多いようですね。そういう私も、創作を始めた頃は50枚から100枚くらいの短編を書いていたのですが、その中で、未来の事件を語るとき「いつまでも読んで頂ける小説」ということを考えていた気がします。現在を舞台にすれば、現在の風俗を描写の中に入れることになります。流行語や服装などは、数年経過すれば全く通用しないし、下手すれば読む方にとって意味不明ということになる。
 それを防ぎたかった。
 だとすれば、現実社会と全く異なる舞台を設定すれば、時代の変化に伴う作品の風化は少なくなるのではないか、と。
 だから、舞台を宇宙船の中にしたり、閉鎖された空間で宇宙人とコミュニケーションをとる話にしたり。どうしても現実社会に近い描写をしなければならなくなったら、架空の町名を登場させることにしました。『横嶋市』という都市を、かつてよく出していましたが、これは地方都市ですよ、という記号のようなもので現実には存在しません。(横島町というところが、たまたま熊本県北部に存在しますが、これは全くの偶然です。実は『ドグマ・マ=グロ』というナンセンスホラーを書いたとき、邪悪な人々ばかり住んでいる都市名を考えていたときに思いついた名前です。邪な人たちが住んでいる市、つまり横嶋市であります。その流れで、『クロノス・ジョウンターの伝説』でも舞台は横嶋市になっていますが。)
 初期に現実の熊本を舞台にした話を一作だけ書いています。これは『清太郎出初式』という短編で、明治33年に、ウェルズの『宇宙戦争』の火星人が熊本にも侵略してきたという設定の話でした。しかし、これは一世紀過去を描くのだから風化しないかなと思ったのです。
 で、小説家として商業誌に載るようになってから40年が経過しようとしています。その途中で気がついたことがいくつか。
 いくら宇宙や未来を舞台にしても、架空の場所であっても、数十年経って読み返してみると、その当時は気がつかなくとも妙に古臭く感じることがあります。たとえば、現代なら、ここは携帯で連絡を取り合うよな、と思ったり。パソコンで検索すればすぐわかることじゃないか、と溜め息をついたり。
 技術が予測できていなかったから、やはり、風化しているんですよ。
 そこに気がついてからでしょう。熊本を意識的に出すようになったのは。
 私の小説は、正直あり得ない話ばかりです。そんなあり得ない話にリアリティを持たせるにはどうしたらいいのか?
 たとえば、死者が生き返ったり、時を超えたり。
 そんなホラ話を読んでもらってバカバカしいと思われないためにはどうするのか。
 ストーリーのメインにある大ボラを信じてもらうために、それ以外の部分では、出来るだけ真実を積み重ねる必要があります。そうすることで大ボラもひょっとしてあり得るかも、というリアリティを感じてもらう……。
 この手法を既にやっていたのがスティーブン・キングです。この作家は傑作ホラーをいくつもモノにしておられるのですが、舞台になるのが、彼が住んでいるメイン州が多いですね。そして、小説の中に登場する固有名詞も現実に存在するものばかりです。車の名も洗剤も、お菓子もテレビ番組も。
 そんなふうに、これでもかというほど現実に存在するものを自分の架空世界に取り込むことで、起こりうる恐さにリアリティを醸し出しているのです。生きている屍体や、吸血鬼や悪魔たちと共存させるために。
 私も、自分の大ボラなSF話にリアリティを持たせるなら、私が生まれ、私が育った、私の大好きな熊本を舞台にすることが、いいのではないかと考えました。
 時間の経過で、作品が風化することは仕方ないと割り切って。それより、今読んで、より面白く感じて頂けるならと、リアリティを選んだわけです。
 だから私が、小説の舞台を熊本にしたがるのは、そのように想像の羽を広げやすいからでもあるんです。そうすれば必ずホラがホントっぽく吹けると信じているわけです。
 また、そんな小説を読んだ方が、舞台になった熊本を訪れて見ようと思われる方がいればいいなあ、といつも願っているんです。そして熊本を訪ねて、もっと違った熊本の魅力を発見して頂けたらとも思います。
 まぁ、今回はかなり真面目語りをしてしまいましたねぇ。

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