カジシンエッセイ

第43回「もちっ娘を頂く」

2008.06.01

今回は久々に、人吉ネタです。
「モチッコって知ってますか?」
突然、そう訊ねられたとき、正直ぴんと来ませんでした。
餅のことだろうか?泥鰌っコ、鮒っコを連想しました。
「平仮名でもちと書いて、娘という字を書いて、もちっ娘というんですが」
私としては初耳である。
「もちに娘ですか?知りません」
そのとき、どじょうっこ、ふなっこから、私の想像世界では、露天風呂に入っている餅肌の娘さんに変化しておりました。

「和菓子ですかねぇ。先日、人吉に行ったときに土産で持たされたんですよ。帰って、食べてみたら、ちょっと変わってて、けっこうおいしいんですよ。カジオさんは、知ってるかなと思ったんで」
「甘いんですか?甘いのは苦手だなぁ」と答えつつ、母親のことを思い出した。
うちの老母は餡の入ったお菓子に目がないのである。数日、餡ものの菓子がないと、禁断症状を起こしそうになるので、取材に出かけたり、山歩きしたりの帰りに、その土地の甘いものを土産に買って帰るほどなのである。
ひょっとしたら、母親も気に入るかもしれない。
「そんなにおいしいものなら……母は餡子に目がないので、人吉に行くことがあったら、買ってきてくれませんか?」
「いいですよ」
それから数ヶ月の時が流れ、「もちっ娘」のことなんか頭から忘れてしまった頃のこと。
「カジオさん。先日、人吉に行く用事があったので、例のもちっ娘、買ってきましたよ」
早速、もちっ娘なるものを頂く。
「よく覚えていてくれましたねぇ」
「ええ。私も、最近もちっ娘のことを思いだしていて、しばらく食べてないなぁ。今度人吉に行ったら……と思っていたんですよ。あ、冷蔵庫に入れておいて、食べるぶんだけレンジでチンすれば、保存ができますから」
持ち帰って、母に渡した。翌日、母に訊ねられる。
「あれって、どこに売ってるんだい?」
「え、人吉らしいよ。食べたの?」
「ああ。黒餡と白餡を一つづつ食べた。おいしいよ。人吉なら、ちょっと買ってきてもらうわけにはいかないねぇ」
そこで、やっと私はもちっ娘なるものを自分の目で、初めて見たわけです。
それだけ母親が絶賛するものならば。
中には、太鼓の姿をした白とピンクの餅状のものが。
食べてみました。たしかに餅だけど、餅とも違った食感。中の餡も上品な味。
できたてなら、もっとおいしいかなぁ。いや、これまでありそうでなかった和
菓子であります。
素朴で、どこか懐かしい味の。
人吉に、こんなおいしい餅があったなんて。ちょっと嬉しいショックでした。
お礼の電話をする。
「そうですか。私がもちっ娘の話をしたわけが、わかったでしょう?実は、黒餡と白餡と、もう一つ抹茶餡というのがあるんですよ。これも、おいしい!でも、先日は売り切れていたんですよ」
帰宅して、このことを母に話す。すると、母の反応はこうだ。
「そうかい。抹茶餡もあるのかい。それは食べてみたいものだねぇ。しかし、人吉は遠いねぇ」
「そのうちに、人吉に行く用事があったら、買ってくるよ」
結局、まだ人吉に行けないままである。
九日町のなかやというお店だとは、わかっているのだが……。
なんとなく、宿題をやり残したような気分で、先日、夢を見た。
広大な工場で、何故かシルクハットをかぶったジョニー・ディップが出てきて、もちっ娘の製造現場を案内してくれるのだ。
で、作っているのは、もち肌の、全員が栄倉奈々の顔をした女工さんたち。
次々と大量のもちっ娘が生産ラインから吐き出されてくる。
目を醒まして、「行ってみなきゃ、いかんかなぁ」とひとりごとを呟いた。夢とのギャップを埋めるために。
きっと、人吉の新名物になるのでは、ないかしらん。

カテゴリー:ここにしかない

ページのトップへ

バックナンバー