カジシンエッセイ

第99回 山ごはん・浜ごはん。

2013.02.01

アウトドアが好きです。
 それも山歩きだけでなく、山菜採りやキノコ採り。
 で、なにが楽しくてアウトドアなんだよ、と思われるかもしれない。
 

そりゃあ、日常生活では絶対に味わうことができない景観を堪能することができる、というのは、あります。知り合いには「山へ行く。ピークハントすれば一瞬にストレスが解消できる」と宣言しておられる方もいます。確かに、そうでしょう。
 僕の場合は、プラス・アルファがあります。
〈アウトドアで、いかにうまいものを食べるか!〉
 そこに執着があるんですね。
 人間の寿命が決まっているとすれば、食事の回数も決まっている。
 つまり一生のうちに食べる料理も有限なのです。
 だからといって食べる回数や量を無計画に増やせば、寿命は短くなってしまう。カロリーの摂り過ぎは病気の元。インプットとアウトプットのバランスは大事です。カロリーの摂取と消費が釣り合っていること。
 だから、アウトドアで歩きまわった後に、消費したカロリーに見合うごちそうを食べるというのは、理にかなった楽しさであるわけです。おまけにストレスが完全に取れていくのが実感できます。
 僕が昔、山歩きを始めた頃は、カップ麺が多かったな。後は、バナナやら、パンやら。バーナーでお湯を沸かしてラーメンやインスタントスープ、焼きそば等。
 あるとき、壁にぶつかったことを感じました。
 これは、いかん!
 せっかく、こんな素敵な環境の中で、日常食べているものを食ってはいけない!
 こんな非日常の世界では、非日常のものを食すべきである!と。
「学生時代、キャンプの晩飯にカレーを食べて、途方もなく美味に感じたことがあるよ。いつも学生下宿の四畳半で作る即席カレーと同じ品なのに。だから、環境によって美味くなることってあるんだよ」
 そんな意見ももちろんあるのは承知の助。
 ぼくは、ぼくの信念で取り組み始めましたね。
 最初に作ってみたメニューは今でも思い出せます。
 雑炊です。ただ、特殊なアレンジのラーメン雑炊。コンビニでラーメンとおにぎりを買って行きました。で、鍋の中にラーメンを作り、家から持っていったキムチを混ぜる。それにおにぎりを入れてグツグツさせて、生卵を落とす。食べるときに、おにぎりの海苔を千切ってふりかける。
 おっかな!食す。結果は……美味かった。
 これは、小岱山は観音岳頂上で作りました。忘れもしません。だが、周囲の人たちは明らかに引いてましたね。
 次に、羽田空港で買った「もんじゃ焼きの素」を山の上で食べましたなぁ。これもバーナーとフライパンで。これは久住大船山の山頂で。
 そのあたりから「より美味なものを、より美味に食べられる場所で」とエスカレートしていきます。
 卓上ガスコンロと鉄鍋を担ぎ、九重星生山から白口岳に回り鍋割峠で食事をしたときは、松阪牛と松茸の「魯山人風すき焼き」でありました。登山者から「何を食べてるんです?」と問われて「松阪牛と松茸のすき焼きです」と答えたら大笑いして立ち去られました。信用されてなかったなぁ。罰当たりすぎるもんなぁ。
 だんだんエスカレートして制御が効かなくなるのは、その頃からですね。で、どのような傾向かというと……。山や野で、んまいもんを採って、その場で料理にしてしまうという何とも贅沢な食べ方。
 特殊な例だと天草の山に登った時に、魚屋で活き魚を買っていって、山頂で海鮮鍋をやって、刺身まで食べたことも。車海老が鍋から飛び出して困りました。
 春は山菜の天ぷらですが、行きつけのお蕎麦屋さんに山を降りてすぐ持ち込んで揚げてもらったり。
 秋はキノコですが、ポトフにとれたキノコを放り込むと、これが美味い。ホイルに包んでホイル焼き。また、すき焼きにキノコ鍋ということになります。
 去年の年末は浜の松林で採ったシモコシをオムレツにして食したら、これも、んまかった。
 しかも山仲間も心得たもので、皆、調味料や食材やら道具類やらの充実ぶりに舌を巻いてしまいます。これからも、まだまだエスカレートを続けそうな予感が。しかも凄いのは、料理が無国籍化、創作料理化していることなのですよね。
 ふと思います。
 例のカレーの話じゃないけれど、こんな創作料理を一人部屋の中で、ぼそぼそ食ったらどんな味なのだろう。やはり感動的なのかなあ。

カテゴリー:山登り

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