カジシンエッセイ

第87回 寿司大好き!

2012.02.01

寿司が好きです。
 寿司という文字は鮨だったり、鮓だったりしますが、どれがほんとうなのかは、どうでもいい。とにかく、寿司と聞くと、パブロフの犬みたいに口の中に唾が湧き出してきます。と同時に頭の中に、にぎり寿司の映像が次々と浮かんでは消えていくというほどです。
 いつの頃からかなあ。

 子どもの頃は刺身は食べれなかったし、ワサビも食べれなかった。
 学生の頃は、「寿司は高いもんだ!」という先入観があったしなあ。
 社会に出てからだと思います。ある日、仕事の出張先で、一人で寿司屋に入り、お任せで握ってもらった。全ての仕事を終えて開放感に浸っていたこともあるんでしょう。これくらいの贅沢は許されるよね、と。
 もう三十年ほども昔のこと。
 寿司とはこんなに美味しいもんだったのか、と。新しい天体を発見したような感動でした。
 それから、食べもので何が好き?と訊ねられたら、真っ先に「寿司です」と答えるようになりました。それからですねぇ、寿司って奥が深いんだと気づいたのは。
 お店によって、これほどバリエーションがあるんだ!と驚かされます。使う魚、ネタもいろいろなものがあるし、処理の仕方も違うし、大きさも違う。食べ方もムラサキ(醤油)だったり、「何もつけないで」と言われたり。シャリの量も違えば、酢の種類も違う。だから、いろんなお店をまわります。
 どこか旅に出ることになると、必ずその土地で評判の寿司屋さんがどこにあるかを訊ねて、訪れてみることにしています。新しい店に行くのは、本当にわくわくします。旅をしているなあ、という気になるんですよ。
 その土地らしい食材を食べさせてくれる所は、やはり寿司屋さんではないか、と信じています。その土地の地魚を一番美味しい形で寿司にしてくれるお店がいいんですよね。
 北海道に行ったときのおまかせ寿司は、ちょっとショックでした。私が住んでいる熊本の魚は白身が多く、噛んだときの食感がコリコリしている。ところが、北海道の寿司に使われているネタの魚は、どれもネットリ系の味。いや、美味いんです。美味いんですが、同じ日本の同じ握り寿司で、こんなに食感が違うんだと驚いたものです。
 仙台だっけ。
 ふらりと入ったお寿司屋さんで、「九州の人間です。こちらでしか食べられないネタとか、ありますか?」
 マンボウの寿司を握っていただきました。いや、ちょっとゼラチンっぽくて珍味だったなあ。そのとき「ちょっとお高くなりますが、ぶどう海老が入っています」と言われて、お願いしました。ボタン海老より二周りほどでかい。そして甘くて美味い。頭の中では羽が生えた自分が飛び回っているような感動でしたね。そのとき以来、ぶどう海老には出会っていませんが、あの味は衝撃だったなあ。
 そんなことがあるから、旅先の寿司屋訪問って止められないんですよね。この時期は、寿司のことが頭を離れなくて「ちゃんこ寿司の恐怖」という短編を書いたほどです。この作品は、全くSFとは縁のない話で、寿司屋サスペンスというか何というか、我ながらいやしいなぁ、と呆れます。
 食べたことのない食材への憧れが、「地球はプレイン・ヨーグルト」やプレシオザウルスを食べちゃう「M・W・Aへようこそ」に発展することになったんだなあ、と思います。シーラカンスとか、寿司にしたらどんな味なんだろうと妄想していた頃、山上たつひこさんが「握り寿司三億年」の中で、シーラカンスの活き造りと握りを登場させていらしたのを見て、先を越されてしまったなあと悔やんだことを思い出します。
 ひょっとしたら、寿司で食べたら美味いんじゃないか、食べてみたいなあー、と思っているのが、ジュゴン、アノマロカリス、チョウザメ、ピラルクーなどですね。ジュゴンはレッドデータだし、アノマロカリスは絶滅しているけれど茹でて握れば美味しそう。うん!バージェス生物群は眺めているとうまそうですよね。チョウザメやピラルクーは、ひょっとして食べる機会あるかもなあ。チョウザメはちょっと表面を焼きぎりして握ったらどうなんだろう、と想像が膨らみます。こんな発想は邪道でしょうか?
 どこかの寿司屋さんで「寿司屋で無料のものが七つあるんですよ。最後に”り”がつくものですが。わかりますか?」「がり(生姜)」「にがり(ワサビ)」「おしぼり」まではすぐに出ててきたんですが、後が続かない。「あかり」なるほど。「ちゃっかり」マッチのことだそうです。「おしゃべり」「にっこり」笑顔での板前さんのトークということのようです。
 回転寿司は安いけど、何となく味気ない。
 でも、一人で万単位を支払うお寿司は、コストパフォーマンスとして、どうなんだろう。
 数千円で美味しい寿司が食べられて、アルコールも飲める。そんなお店が最高だよな、と思います。
 そういう意味で、いま天草は寿司のお好きな方にとって、天国状態ではないかと信じています。ネタは新鮮で旬のものが食べられるし、どの店も外れがない。創作寿司の名店で食べた鯛のメレンゲ寿司は忘れられない。港の片隅のお寿司屋さんは、行列のできるお店で安いし、水に浮かぶ小舟に乗った回転寿司では、うつぼの寿司を体験したし。
 これから天草は寿司で町おこしが出来るんじゃないかなあ。寿司大好きの私がお勧めします。天草に行ったら、ぜひ寿司の食べ巡りを体験してみませんか?

カテゴリー:食に夢中

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