カジシンエッセイ

第82回 妄想力で行こう!

2011.09.01

初めてお会いする方から、よく訊ねられることがあります。私が小説を書いていると伝えると、相手の方はなんだか不思議ないきものを見たような表情をされるのですが、ま、それはいいとしてその後の質問ーー小説家の方って、どうやって話をこさえるんですか?
 そんなとき、まずニッコリ笑って深呼吸。そしてこんな風に答えてみる。

「話の作り方ですか?それは企業秘密だから、お答えするわけにはいかないのです。フレンチ三つ星シェフに、秘伝ソースの作り方を教えてくれ!とお願いして、すぐに教えてくれますか?」
 なかなかカッコ良さそうな答え方だなあーとは思うのですが、現実ではこんな答えをお返したことはありません。頬は硬張って笑顔なんか作れないし、企業秘密とやらも存在しません。
「さ、さあ。どうやって作っているんでしょうね。自分でも、よくわからないんです。迷って、迷って、作り上げているわけです」とほそぼそ答えるのが関の山。
 それから、もう一つ。
ーーカジオさんの小説のアイデアは、どんなときに、どうやって思いつくんですか?
 これも答えづらいですね。
「いやあ。プロですからねえ。机の上に座ってペンを握ると、流れるようにアイデアは湧いてくるんですよ。あとは、それを書き留めておくだけ」
 嘘です。こんな答えを、もし信用する人がいたら、作家って楽な仕事だろうなあ、と思う筈です。
 机の前に座っているだけで、次から次へとアイデアが湧いてくるんだったら、私も毎年、何十冊と本を書いているにちがいありません。
 アイデアなんて、願っても思いつかないものなんですよ。なんか、良いネタはないかしらと、飢えた野良犬が餌を探すように、いつもうろつきまわって探しています。それでもアイデアが欲しいときに限って、アイデアは湧いてこないものなのです。
 何も考えずに、ぼんやり歩いているときに、ふっ、とアイデアが湧くことがあります。この場合は、自分で思いついた気がしません。「よし、よし、感心者のカジオにお話のアイデアを授けるとしよう」と、天空の高いところにいる誰かが、私の頭の中に放ってくれる。
 私は、私の頭の中の消しゴムがそのアイデアを消し去る前に、大慌てメモをとっておくわけです。
ーー夢の中でアイデアを得たりすることはあるんですか?
 私がいつも現実離れした話を書いているから、皆さんはそんなとこから話のアイデアを得ていると思われているようです。
 確かに、「うわっ。この夢、凄く面白い。この夢の話を小説に書いたら、馬鹿受けするだろうな」と思ったことは昔から何度もあります。
 ところが目を覚ますと、「夢が面白かった!」という事実は憶えているのに、肝心の夢の内容については何も覚えていない。あまりに悔しいので、しばらく枕元にメモ帳を置いて寝たこともありました。
 で、結果はというと……。
 夜中に、これは面白いという夢を見て、寝ぼけ眼をこすりつつメモ帳に記しました。「よし、これで明日は名作短編が書けるなあ!」と、ほくそ笑みつつ再び眠りの底へ。
 翌朝、そのメモ帳を見たら……。
 何を言いたいのか全くわからない支離滅裂な文章が書き殴られているだけ。
 愕然としました。
「シャイニング」に登場する作家が、同じ文を何度も書いたものを家族に見せ、「どうだ。傑作だろう!」という場面がありますが、あれと同じじゃありませんか。
 話は戻りますが、方法としては一度頭の中に芽生えたアイデアを、大事に大事に育てるしか、方法はないんじゃないか、と思うようになりました。
 百人の作家さんがいたら、百の話づくりの方法があるのではないか?
 最近はよく、そう考えています。
 ただ、私は妄想をスタートさせると、延々と妄想を続ける癖が、人より強くあるような気がします。
 もしも、あのとき、ああせずに、こうしていたら?
 タイムマシンの中で、反対方向に小さなタイムマシンを動かしたらどうなるんだ?
 アイデアに関して、延々と妄想を拡大させていくことが方法の一つかな、と思います。
 馬齢を重ねて、最近はとみに妄想力がパワーアップしてきていることを実感します。
 元はと言えばエマノンも、<自分の前に髪の長い美女が現れたら>という妄想の連鎖で組み立てたのがスタートですからね。
 とすると、私の話づくりの原点は妄想力?
 あ、私の妄想の例だったら、どれだけでもお話できますよ。

カテゴリー:妄想伝説

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