カジシンエッセイ

第14回「うんすんカルタ」

第14回「うんすんカルタ」

2006.06.08

球磨郡あさぎり町免田に住む友人と、電話で話した。
「球磨・人吉で、よそにはなくて、ここ特有って胸を張れるもの、お正月で何かあるか?」 答えが返ってきた。
「酢ダコ」
「それは、もう書いちゃったよ。他にないのか。猪で闘牛みたいなことをするとか、人間凧揚げとか」

しばし、友人は、電話の先で考えていた。何も、返事がないので、眠り込んでしまったのではないかと心配した。
「おい、起きてるか?」
「ああ、考えていた。うんすんカルタというのがある」
「カルタ・・・たしかに正月だな。その何とかカルタって人吉地区しかないのか?」
「ない!」
そう断言した。
「球磨拳は、焼酎飲むときならいつもやってるけど、うんすんカルタは正月だな」
「どんなカルタなんだ。犬も歩けば棒に当たるみたいな?」
「いや、全然ちがう。花札みたいなイメージかなぁ」
「どんなルールなんだ?」
「カードゲームの一種かなぁ。全国的にも、ここしか残ってないんだ。ルールは・・・俺やったことないから、わかんないよ。見た限りでは、難しそうだ」
ヒントだけもらって調べてみた。
確かに、人吉地区だけに残ったカードゲームのようだ。十六世紀半ばに、ポルトガルから持ち込まれた南蛮カルタが、国内では天正カルタやうんすんカルタとして流行し始めたようだ。
驚いたのは、「うんともすんとも」という表現の語源は、このうんすんカルタから来ているということ。
うんすんカルタは十五枚のカードが五種類あるトランプのようなものらしい。ハートやスペードの代わりに、剣や、花こん棒、貨幣、巴紋、コップがある。数字は書いてなく、そのマークの剣や、巴紋がひとつづつ増えていく。絵札も、それぞれの種類にあり、唐人や福の神、馬に乗った侍、女性、竜が描かれている。竜の絵も女性も、下手ウマな画風で愛着が湧く。とても女性とは思えないし、竜なぞ、一目見て、ウツボかと思ってしまった。
それで、一番強いカードが、唐人を描いたカードで、これをスンと呼ぶ。その次ぎに強いのが福の神カードで、ウンと呼ぶ。ポルトガル語でウンは一番という意味、スンは最高という意味らしい。それで、自分の手に、いいものが揃っていない場合「うんともすんとも言ってこない」という形に発展したらしい。
このうんすんカルタ、全国的に流行していたらしいのだが、ある時点で消滅している。どうもギャンブルとして遊ばれていたようで、寛政の改革で全国的に禁止されたそうだ。
それ以降、うんすんカルタは遊ばれなくなって、唯一、伝わっているのが、人吉地域だけ。
なぜ、人吉にだけ、うんすんカルタが残ったのかは、よくわからない。
相良藩は、よほど幕府の目の届かない僻地だったということなのだろうか?
今でも、人吉には、うんすんカルタを振興させる会が存在しているようだ。
友人に再び電話する。
「うんすんカルタが、人吉方面だけに残った理由って、わかる?」
そう訊ねた。
「なーん、相良藩な、米の石高をごまかして申告して、余った米で焼酎造りよったくらいだけん、そーんくらいすっどぉ」
「ホント?」
「じゃっど、じゃっど」
という答えが返ってきた。おおらかだなぁ。


※じゃっどー球磨弁で、「そう!」の意味らしい。

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