カジシンエッセイ

第121回 パーティ嫌い

2014.12.01

 年末年始にかけて、何かとパーティの案内をいただくことが多くなります。以前は、出席しないと義理を欠くかな、と参加したりもしていたのですが、だんだん自分の本質がわかってきました。
 私はパーティ嫌いなのです。
 ひょっとしたら、パーティ嫌い以前に、対人恐怖症の傾向があるのかもしれません。だから、特に立食パーティなどになると、いろんな人が会場を回遊していて怖いのです。
 初めてお会いする方と言葉を交わす。それから、宜しくお願いします等の挨拶をするのですが、相手のことを何も知らないので、それ以上何を話していいのか、わからなくなってしまいます。
 そのとき願っているのは、「早く、この人どこかに立ち去ってくれないかな」です。その方からすれば、私などそわそわと落ち着きのない目をしたアブナイ男だと思われたに違いありません。
 服装や話し方から、この方はどんなことをやっている方かなと想像してみたりはするのですが、それが当たっているのかどうか尋ねてみる勇気はありません。下手に尋ねてみて、外れていたら失礼になる気がしますし。それで、考え過ぎて失語症状態になってしまっているのです。
 その方が立ち去っても次の方が近寄ってこられます。その方はにこやかな笑みを浮かべて親しげに話しかけてこられます。何度かお会いしたことがある方のようです。
「やあ、カジオさん。お元気でしたか」と。それで、慌てて私も作り笑いを浮かべます。
「ええ、おかげさまで」
 そこで私も気がつきます。そうだ。この方とは、どこかで会ったことがある!
 だが、どこで会ったのか?何をしている方なのか?名前も思い出せない。
 これだけ親しげに接してこられるのに、「どなたですか?」とは口が裂けても言えません。そんなことを尋ねたら深く傷つけてしまうに違いありません。だから、私も久しぶりなふりをして、実は思い出せていないことがバレないように会話を繰り出すしかありません。相手の固有名詞がわからないから、必死で誤魔化しつつ。「寒くなりましたね。お山は氷河でしょう」とか、「少しお痩せになりましたか?」(と言えば大抵喜ぶ)「お変わりありませんね。いつもお若くて」(これもほとんど喜ぶ)と言葉を交わしている間に、その返事をヒントに、誰だっけ?と、つきとめようとしています。そんなときの掌は脂汗だらけです。お相手を全然別の方と勘違いして話していて赤面。そんな前科もあるものですから。
 どなたかがやって来て、その方に話しかけられたら、これぞチャンスとばかり、その場をさっさと逃げ出すことにしています。
 もうひとつパーティの嫌なこと。私の大嫌いな人も来ていることがあるのです。私が嫌いだから、そいつも私のことが嫌いならいいのに、鈍感だから気がついていないんですね。
 で、チラと視界の隅でそいつが来ていることに気づきます。必死で私に気づかないでと願い、もう一度チラと見ると、私の方をじーっと見ているんです。さっさと向こうへ行ってくれと願うと、何と、つかつかとこちらへ近づいて来るんです。だから、頼むから私に話しかけてこないで欲しい。そう切に思うと、私に話しかけてくるんです。
 悪夢です。
 死んだふりしようかと思いますよ。
 対人恐怖症で、パーティ嫌いと書きましたが、もう一つ、私自身の致命的な弱点に気がつきました。これも、対人恐怖症と関連があるかとは思うのですが。
 私の日常生活に関係しています。私が一日の中で言葉を交わすのは、家族を除いて多くても三、四人です。あとは、日がな部屋に籠って、ときどき独り言を漏らしながら原稿に向かうか、本を読んでいるか、です。つまり、一日に人と言葉を交わすのは三、四人。
 パーティで五人以上、それも日頃顔を合わせていない人と話をしなければならなくなると、精神的に自分が追い詰められていくのがわかります。私が不器用だということですね。だんだん心が疲労していく。そして私の容量を超えてしまうと、混乱が発生します。
 自分では必死に会話を受け応えしようとしているのですが、意味不明になってしまっていくのがわかります。それだけじゃない。滑舌も悪くなっていきます。
 これは、私の脳の熱暴走状態だと思います。オーバーヒートしているということですよね。回復するには、しばらく放置しておくしかないようです。
 それだけで終わるならいいのですが、翌日あたりから、悪い癖が起こります。
 パーティへ出席した自分を責めるのです。なぜ、あんなことを言ったんだ、とか、非常識だぞ、と自分を叱り始めるのです。
 そのあと、どんよりと自己嫌悪に。そして、パーティなんて、行かなきゃよかった、という後悔に。
 そんなわけで、パーティ恐怖症はいつまでも治りません。もし、誰かに引っ張り出されてオタオタしている私を見かけたら、生暖かく見守って頂ければと願う次第です。

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