カジシンエッセイ

第103回 制作現場でお邪魔ムシ!

2013.06.01

三年ぶりに上京して参りました。
 いくつか仕事の打ち合わせもあり、また、美味しいものを食べるというお楽しみもあるのですが、今回の目的は、テレビドラマの制作現場を訪れるというものです。
 お知らせしておくと、私の長編「ダブルトーン(平凡社)」が放映されることになりました。6月29日のスタートで毎週土曜日23時15分から。NHK-BSプレミアムの連ドラです。

 二人の女性が同じ記憶を共有するという設定なので、主人公は二人いるわけです。
 そのあたりが、混乱しないかな?
 映像的に表現できるのだろうか?と案じたのですが、山本あかりさんの脚本を読ませて頂き、「なるほど」と感心しました。「うまく書き分けてある!」これなら、いいかも。
 小説の中では舞台は全編熊本市なのですが、制作上の都合で、東京都及び近郊の都市で撮るんだそうです、と担当の編集さんに知らされました。
 それを聞いて、「制作現場を見たい」という欲望がムラムラと沸き立ってきたわけです。
「あのー。ぼくもドラマの制作現場を見学に行っていいですかね?」
 なにせ、私は生まれついての映像好き。年間に二百五十本以上の映画を、まるで呼吸するように観る人間なのです。だから、自分の小説が視覚的に表現される現場には、何が何でも行っておきたいと願うのは、当然でしょう。
 担当の編集さんは、「あー。じゃあ、作者がそういう意向だということを伝えてみますね」
 すると、ドラマ制作の香盤表(なんと言えばいいのか、建築関係で呼ぶところの工程表と言うか。誰が何日に出演しているかも一目で分かりますし、いつが制作作業が休みなのかもわかる表)が送られてきましたよ。
 仕事の段取りをいろいろとこねくり回して、いざ上京ということになりましたが、すでに製作期間に入っているので、見学に行けたのは、終わりがけでありました。
 ロケ現場は町田市の住宅街。
 主人公の一人が、熊本では水前寺界隈で生活しているのですが、その住宅街をイメージしているようです。
 現場にたどり着くのが、大変。なるほど、その住宅街の雰囲気は、熊本市の住宅街でありました。
 町田は、初めて行くところではありますが、やたら遠い。都内から一時間半はかかったのではありますまいか。しかし……確かに地方都市の匂いがある街でした。そこに感心。
 プロデューサーの方もシナリオライターの方も、私を待っていてくれました。感激。
 そして驚いたこと。プロデューサーの志岐さんは佐世保出身。シナリオライターの山本あかりさんは長崎の離島出身。主演の中越典子さんは佐賀出身。私は熊本出身。
 おお、九州出身者が勢揃いではありませんか。いやあ、主演の中越典子さんのきれいなこと。顔が小さくて、お人形さんみたいで、とても私と同じ人間とは信じられませんでした。
「原作も読みました。後半はずっとはらはらどきどきしました。すごく面白かったですよ」
 そう中越典子さんに言って頂き、舞い上がりました。いったいなんて答えたのか?
 頭が真っ白になってしまい、その部分だけは、爺は、記憶喪失じゃぞ。
 カメラの後ろに行ったり、モニターを覗き込んだり。クルーの方々には邪魔だったろうなあ。そして、「あれ、お上りの原作者だから、邪魔になっても我慢してね」とプロデューサーから釘を刺されていたのではありますまいか。
 休憩に入って、シナリオライターの山本あかりさんともお話しするタイミングがありました。私が、シナリオを読んで感心した旨をお伝えする。台詞も原作から変更が加わっている。わかりやすい、というか。
「女性のシナリオライターを探されたようですね」と、山本さん。
 なるほどと、膝を叩きました。主人公たちは女性で、作者は男。で、どんな気持ちで女性の心を描いたのかというと、これは想像です。火星の表面や宇宙空間を描いたりするのも、想像ですが、女性心理を描くのと同じレベルの心理実験です。
 だから、女性のシナリオになったのは、描写に嘘がないようにという配慮でしょう。
 さて、いくつか原作とドラマは異なる点があるようですが、それは本を読んでドラマを見て確かめて頂くことをお勧めします。
 いやぁ、楽しい現場でした。どのような作品に仕上がっているのか?
 今からわくわく。楽しみでなりません。

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